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偏差値エリートばかりの会社に未来はあるのか?

上念司(経済評論家)

2017年07月14日 公開 2017年07月14日 更新

偏差値エリートばかりの会社に未来はあるのか?

リスクを取らずにリターンだけを得ようとする人たち

ずいぶんと前から日本では偏差値を基準とした学校の序列化が進んでおり、多くの子供たちが人生の選択をカタログだけを見て決めるという悪い癖がありました。多くの人が偏差値の一覧表と自分の模試結果を見比べて、「自分の実力に合った進路」を決めてきたのではないでしょうか。むしろ、先に自分の偏差値にマッチする選択肢を並べたうえで、「私は○○になりたい」と後付けしている人も多かったと思います。

このような学校選びと同じ感覚で会社選びをすれば、まさに就職企業人気ランキングがモノを言う世界になってしまうわけです。

元々、会社には偏差値なんてありませんが、就職活動がシステム化されたことで、多くの人が何となく会社にはランキングがあるかのような錯覚を抱いてしまいました。偏差値教育が会社選びにまで浸透してしまったということです。

しかし、単純に年収という点で考えれば、名も知れぬ中小企業に入って、偶然その会社が大きくなるタイミングに居合わせて役員となり、ストックオプションでぼろ儲けするほうがいいのではないでしょうか?

もちろん、そういうことを狙って中小企業に入ったとしても必ずそうなる保証はありません。むしろ、事業がまったく成長せず、会社が倒産してしまって路頭に迷う可能性のほうが高いでしょう。大きなリターンを狙うことは、同時に大きなリスクに立ち向かうことでもあるからです。

そういう意味で、世の中は思ったよりも最適化されているのです。経済学に「There is no such thing as a free lunch.(タダ飯はない)」という言葉があります。

大きな危険を伴う、将来が見通せない不確実性があるからこそ、当たったときの見返りが大きいわけです。ということは逆もまた真なりで、ショボい安定志向の先には、金額的にはショボいリターンしかなくて当然ということになります。

ところが、世の中には心が汚れきった悪知恵が働く奴がいます。彼らはリスクをまったく取らずにできるだけ大きなリターンを得ようとする虫のいい人たちです。

彼らは、日本の自由主義経済にさまざまな規制を加え、その規制によってあらゆるものを序列化し、立場が逆転されること、いわば下剋上を不可能にしようとします。これを国家レベルで行なおうとする人は設計主義者(共産主義者、国家社会主義者)であり、会社の中でやろうとする人はいわゆるランク主義者・学歴主義者です。

こんなことばかりしていたら、人々の自由な発想は阻害され、国の経済や会社の経営が傾いてしまうでしょう。

 

トヨタもグーグルも「真の不確実性」に立ち向かった

例えば、企業が超過利潤をどうやって得るかということについて、フランク・ナイトという経済学者が面白い話をしています。

ナイトによれば、私たちが普段直面している不確実性には二つの種類があると言います。一つは確率分布が計算できる「リスク」と呼ばれるものです。例えば、40代の男性がガンになる確率とか、30代以下の人が車を運転して事故に遭う確率など、統計的に解析すればある程度発生確率が予想できるものが「リスク」です。

これに対して「真の不確実性」と呼ばれるものがあります。これは確率分布がまったく予想できない事象です。北朝鮮が日本に核ミサイルを撃ち込む可能性とか、巨大な隕石が地球に衝突する可能性とか、巨大津波が発生する可能性とか、そういった滅多に起こらないことがこれに当たります。

しかし、滅多に起こらないからこそ起こったときは甚大な被害をもたらすのも「真の不確実性」の特徴です。もちろん、これは災害のようなマイナスの事象に限らず、日経平均が一気に5万円になるとか、人間が突然変異して光合成ができるようになる(食糧問題が解決)とか、そういったプラスの事象でも想定していい話です。

「リスク」は確率分布から計算できるため、誰でも確実に儲けられます。そのため、そのことを知った多くの人が「リスク」を取り扱う産業に群がり、たちまち価格競争が始まります。参入する人が増えれば増えるほど価格は低下し、最後は採算ぎりぎりのラインまで価格が低下します。まさに過当競争です。利益の薄い商売ですから、体力のない企業は倒産していきます。しかし、倒産によって市場に少しでも隙ができれば、ライバル企業がそれをすぐにかっさらっていきます。

計算できる「リスク」に対応するのは楽ですが、競争は厳しく、生き残るのは大変です。

これに対して「真の不確実性」を取り扱う企業を考えてみてください。あるかどうかもわからない、しかし、もしあったら大きく儲かるかもしれない仕事は一見魅力的ですが、実際に参入するのは大変です。

例えば、いま宇宙旅行という業界に参入することはとても勇気がいることのように思えます。しかし、何かの拍子に宇宙旅行がとてもメジャーな産業となれば、先に参入していたベンチャーにはすでにサプライチェーンができているため非常に優位な立場でサービスを提供することができるわけです。

そうやって大きくなった会社がトヨタであり、グーグルだったということに気づきませんか? トヨタは元々自動織機の会社であり、自動車に参入するなどということは、いわば狂気の沙汰でした。そもそも、モータリゼーションがここまで進むなんて当時は誰も思っていませんでした。

トヨタ自動車は戦後ドッジ・ラインによるデフレで業績が大きく落ち込み倒産寸前まで追い込まれました。安定志向の人から見れば、「そんなアブない産業に色気を出すからダメなんだよ。もっと堅実にやるべきだった」という話になるでしょう。

しかし、朝鮮戦争の勃発で、米軍からの大量注文が入りました。1カ月で1年分近い売り上げが突如立って、在庫は一掃され、生産が間に合わなくなって設備投資を増強するという状態になってしまいました。もちろん、このとき日本の自動車メーカーはトヨタに限らず大きく飛躍しました。

グーグルやアマゾンのようなIT企業も、インターネットの黎明期のまだアナログ回線だった時期、あるいはせいぜいADSLが普及し始めた頃に始まったサービスです。当時、ここまでインターネットが普及し、生活の隅々までネットなしには暮らせなくなると予想している人は稀でした。しかし、その後ブロードバンドの急速な普及により、いまではどちらの企業のサービスも生活になくてはならない「インフラ」になっていることは間違いありません。

このように、トヨタやグーグルも創業当時は「真の不確実性」に立ち向かうリスクテイカーだったわけです。ナイトに言わせれば、超過利潤を上げられる企業というのは、「リスク」ばかり取り扱って価格競争に明け暮れる会社ではなく、「真の不確実性」に立ち向かって市場を創る会社なのです。

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「真の不確実性」に挑まねば滅びるのみ

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