「大学合格が人生の全盛期」な人を生んでしまう誤った勉強法

茂木健一郎
2023.10.06 11:29 2019.04.22 17:00

テストに挑む子ども

「これまでの日本の教育のままでは、世界で戦えない」「AI時代に、活躍できる人材に育たない」とよく言われます。では、今後求められているのは、どのような勉強法なのでしょうか。脳科学者である茂木健一郎先生に聞きました。>>

※本記事は、PHP新書『本当に頭のいい子を育てる 世界標準の勉強法』(茂木健一郎著)の内容を抜粋・編集したものです

「頭の良さ」の基準が変わってきた

茂木健一郎さん
茂木健一郎さん

 

2020年度からセンター試験が廃止され、新しい「大学入学共通テスト」が実施されます。従来型のセンター試験は「記憶力や知識量」を問うものでした。新しいテストでは、「記憶力や知識量」に加えて、「思考力・判断力・表現力」も問われるようになります。

「記憶力や知識量」は、これまでの受験用のテクニックを駆使すれば発揮できます。それに対して、「思考力・判断力・表現力」は、「地頭の良さ」が試されます。地頭力は、「既存の知識にとらわれず、自分の頭で考えられる力や、自分なりの切り口で問題を探究できる力」のこと。

もっと簡単にいうと、子どもたちが自ら考えたり、自分自身の判断で行動したり、自分の考えを相手に伝えられることです。

なぜ、このように試験が変わるのかというと、AI(人工知能)が台頭する時代がやってくるからです。既に今でも、インターネットの出現により、世の中の大半のことは検索すればわかるようになっています。

そこで知識を頭の中に詰め込む必要がなくなりました。つまり、既存の学歴や偏差値教育など、旧態依然のやり方が通用しなくなるということです。

既存の勉強法では将来、AIに太刀打ちできない。となると、私たち人間に求められるのは、AIが苦手とする分野。これから成長が見込める新たな分野を開拓したり、今まで誰もやってこなかったアイディアを実現したりすることです。

そこで「思考力・判断力・表現力」が必要になってきます。これらは地頭の良さが問われるもの。この地頭を良くするのが、教育改革期の今、注目されている「探究学習」です。

 

東大生の一割しか、本当の思考力を身につけられていない

学校の教室

探究学習とは、「能動的な学習」「答えを導き出すための力をつける学習」と定義づけられます。

「探究科」を導入したことで、京都大学などの国公立大学への進学者が約18倍にもなった、京都市立堀川高校の現校長・谷内秀一さんの言葉を借りれば、「答えのない問いに対して、自分が正しいと思われる答えを導き出す営み」となります。

自ら設定した課題に対して、仮説を立てたり情報を集めたりして、主体的にその答えを探っていきます。探究学習の答えは、ひとつではありません。答えを限定せず、あらゆる可能性を探り、結論に導くこと自体が学習なのです。

探究学習の課題は、社会問題でも自分の趣味に関してでも、何でも構いません。ただ、子どもが好きで熱中しているものの方が、報酬系の神経伝達物質であるドーパミンが放出され、「ドーパミン・サイクル」が回り始めます。

好きだから調べる、新しいことがわかって楽しい、また調べる……。こうして繰り返していくうちに、脳の性能が上がり地頭が良くなります。

親にとって、「そんなことに熱中して、一体何の役に立つの?」と思うようなものでも、子どもが熱中しているのであれば、全力で応援してあげてください。

親の応援がないと、子どもは、「ちょっと興味がある」程度の中途半端な状態で終わってしまい、それ以上探究を深めることができません。深めることができないと、「思考力・判断力・表現力」は身につきません。

僕の実感からいくと、日本で一番「頭がいい」と思われているであろう東大生でも、「本当の思考力」を身につけられている学生は、一割くらいです。知識が問われる受験勉強は得意でも、自ら問いを立て、思考する力を持っている学生は驚くほど少ない。

これからの時代は、AIにできない仕事をすることが大切です。新しいアイディアを思いつく思考力、それを形にできる判断力や独創性に富んだ表現力。つまりクリエイティビティこそが、新しい時代に求められる資質なのです。

このようなことを考慮すると、親が子どもにできる最強の教育は、子どもが興味を持ったことを徹底的に探究させてあげることではないでしょうか。

茂木健一郎

茂木健一郎

1962年東京生まれ。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。脳科学者。