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「パンチパーマ社員」と「相次ぐ若手の退職」 老舗くず餅屋が直面した“事業承継の壁”

2019年06月18日 公開

渡辺雅司(船橋屋 代表取締役八代目当主)

渡辺雅司(船橋屋 代表取締役八代目当主)

<<「船橋屋」を知っているだろうか。東京・亀戸に創業1805年の歴史を持つ和菓子屋で、看板メニューの「くず餅」は、芥川龍之介や永井荷風、西郷隆盛などに愛されてきた。まさに「老舗」の企業が、いま若者から注目を集めている。

その理由が、“若手を主役”、“イノベーション”などまるでベンチャー企業のようなカルチャーが浸透していること。毎年、数名の採用枠に17000人が応募する人気企業となった。

しかし、そこに至るまでに「試練」があった。老舗ののれんを継いだ8代目当主は、経験のない環境を目の前にして苦悩する。本稿では、船橋屋8代目当主を務める渡辺雅司社長の新著『Being Management 「リーダー」をやめると、うまくいく。』から、事情承継の厳しさ、苦しさについて紹介する>>

 

「のれん」を脅かす者はすべて「敵」として考えるように

1993年に「船橋屋」に入社した私は、パンチパーマやリーゼント社員を目の当たりにし、たいへんなカルチャーショックを受けました。

銀行員時代には「利益」の大切さを叩き込まれていましたので、会社はとにかく成長をして、財務的に健全でなくてはいけないと強く信じていました。実際、お取引先には、そのような健全経営の会社が多くありました。

こうした会社の社員の方はみな礼儀作法や身だしなみはもちろん、社会人としての常識もしっかりと身についており、仕事のルールも整備されています。

一方、当時の「船橋屋」は、そういった会社とはほど遠い状態でした。
販売員、職人、そしてパートの方たちも含めて、みな独自のやり方がありました。かなり自由なマイルールに基づいて働いていたのです。

このような人たちと私は自分の理想とする会社をつくれるのだろうか。そして、父の跡を継いで、誰からも認められる当主になれるのか。

入社早々に、こうした「不安」に人知れず支配されてしまったのです。

「不安」が大きくなるなかで、次第に自分が「立派な当主」と呼ばれるようになるため少しでも障害になる者や、私の考える「船橋屋ののれん」を脅かしているように見える者たちは、すべて「敵」として考えるようになってしまったのです。

パンチパーマやリーゼントというヤンキー風ファッションの社員たちのことも次第に快く思わなくなっていきました。こんないでたちでは、「船橋屋」の評判を傷つけられてしまうのではないか、という不安が出てきたのです。

そのような私の「不安」は、「船橋屋」の命である「くず餅」を生み出している職人たちにも向けられました。

彼らには、ほかでは真似のできない素晴らしい技術があるのは紛れもない事実でしたが、一方で、外野の人間には自分たちのやり方に一切口を出させないという職人特有の閉鎖的な文化がありました。

昔ながらの職人気質が強いあまり、若手社員たちがなかなかついていけず、すぐに辞めてしまい、後継者もまったく育ちません。

この現状を変えなくては、船橋屋の「のれん」は守れない。

そんな思いが徐々に湧き上がり、わたしはついに「改革」へと乗り出しました。トップダウンで悪しき習慣や効率の悪いシステムを改善し、あらゆるプロセスを「数値化」「見える化」していきました。

しかし、そのような強引な物事の進め方がうまくいくわけなどありません。私としては、とにかく会社としてのルールやシステムを整備すべきだと考えていたので、古参社員や職人たちとさまざまな局面で意見が衝突することになります。

当時は私もまだ若く、ひたすら猪突猛進、反対意見を論破して強引に改革を進めていきました。そのせいで、社員から反発を買ったのは言うまでもありません。

「新しい専務のもとではやってられない」

そんな捨て台詞を吐いて船橋屋を去っていったベテラン社員もいました。

しかし、私からすれば、利益を上げて、事業を拡大して、船橋屋が成長していくためには仕方がないという思いでした。むしろ、「辞めていく人は、新しい船橋屋にとって必要のない人材だったのだ」というぐらいにしか感じていなかったのです。

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