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「いつ死んでくれるんだ」と凄む上司…SOSを発した部下を救った“退職代行の反撃の一手”

清水隆久,増森俊太郎,吉田名穂子(弁護士法人川越みずほ法律会計)

2020年09月04日 公開 2022年06月02日 更新

「いつ死んでくれるんだ」と凄む上司…SOSを発した部下を救った“退職代行の反撃の一手”

近年、その存在が広く認知され始めた「退職代行サービス」。会社や仕事で苦しむ多くの人が続々と駆け込んでいるという。

「会社を辞めたいけど、どうしても辞められない」という相談が跡を絶たず、日本ではまだまだ「辞めると申し出ること」自体に高いハードルが存在することを証明している。

本稿では、退職代行サービスを請け負う弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士たちによって執筆された新著『退職代行を使う前に読む本』より、実際に対応した多くの事例のなかから印象深かった案件に触れた一節を紹介する。

※本稿は清水隆久,増森俊太郎,吉田名穂子共著『退職代行を使う前に読む本』(インプレス刊)より一部抜粋・編集したものです。

 

「おまえはいつになったら死んでくれるんだ?」

私たちが退職手続きを代行した中でも、最も印象に残っているのがサービス業に従事していた30歳男性のAさんでした。

Aさんは職場の上司から「おまえはいつになったら死んでくれるんだ?」と再三いわれ続けていたといいます。

そんなAさんからのSOSメールを受け取ったのは朝方でした。そこには、衝撃的な内容が書かれていました。

「同僚が亡くなってしまった」
「亡くなった同僚と同じような働き方をしている自分も死ぬのでは、と怖くなった」
「その同僚は『頭が痛い』といっていたのだが、私も頭が痛くなり、体が腫れてきている」

Aさんはそのとき既にうつ病の診断を受けており、診断を根拠に退職の意思を伝えたところ、「損害賠償するぞ」といわれて、辞めることもできなかったとおっしゃっていました。

詳しくお話を聞いてみると、Aさんの最高残業時間は月約150時間、直前も約100時間でした。厚生労働省が定める、過労死ラインは100時間ですので、多いときは過労死ラインを1.5倍も超過していることになります。

私たちはすぐさま退職代行の手続きに着手しました。そんな環境でこれ以上働けば、Aさんの心だけでなく健康にも大きく被害が出ると判断しましたので、「今後は一切出社する必要はありませんよ」とお話しました。

そのときの「本当ですか…」と、Aさんの安心された声が今でも忘れられません。

結局Aさんは私たちにメールを送ってから、一度も出社することなく退職することができました。

 

残業代の請求、パワハラの慰謝料…泣き寝入りにならないために

そして彼のためには、退職代行だけでなくまだまだできることがありました。それが、残業代請求とパワハラの慰謝料の請求です。

私たちにご相談をいただいた時点で残業代は長らく未払いでしたし、会社側の対応は明らかにパワハラに該当します。私たちはAさんの証言を元に、労働審判を申し立てました。

ちなみに「労働審判」とは、企業と従業員のトラブルを原則3回の審判で和解を図る手続きのことをいいます。Aさんの事例では、会社側はパワハラ行為、残業代未払いともに認めて、300万円を超える解決金を支払うことで和解が成立しました。

なお、Aさんはうつ病の診断を受けていますので、労働災害の認定を受け休業補償を受け取っている状態です。本稿の執筆時点では実家で治療に専念しており、少しずつ本来の自分を取り戻しています。

Aさんは私たちに助けを求めることができたからこそ、恐ろしい労働環境から逃れられ、十分な補償を受けることができました。

しかし、「退職代行サービスがなければ、退職代行を気軽に相談できる弁護士が存在しなければ、彼がどうなっていたのか」と考えると、恐ろしくなります。

私たちは、一人でも会社の問題で苦しむ方を救いたい、誰かの心の支えになればという一心で24時間、365日、電話やメールでの相談を受け付けているのです。

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損害賠償のための「有効な証拠」とは?

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