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日本人が「指示待ち型」になるのは受験勉強のせい? 閉塞から脱却するための思考法

岡田昭人(東京外国語大学教授)

2021年04月30日 公開 2022年10月06日 更新

日本人が「指示待ち型」になるのは受験勉強のせい? 閉塞から脱却するための思考法

「調べればすぐに答えが見つかる問題」と「決まりきった正解がない問題」の違いは大きい。前代未聞の変化にさらされる今の時代、答えのない問題を考え抜く力を育てることがより重要になってくる。

そう主張するのは、東京外国語大学大学院総合国際学研究院の岡田昭人教授。同氏はオックスフォード大学教育学大学院に留学し、同校で日本人初の教育学博士を取得。現在はさまざまな国籍の生徒たちに、知識の詰め込みではない「学び」の楽しみと本質を教えている。

本稿では、岡田氏の新著『学びの呼吸~世界のエリートに共通する学習の型』より、答えのない問題への取り組み方について書かれた一節を紹介する。

※本稿は、岡田昭人『学びの呼吸~世界のエリートに共通する学習の型』(技術評論社刊)より一部抜粋・編集したものです。

 

ジレンマ思考法で答えのない問題にねばり強くとり組む

イギリス人「考えた後で走る」
フランス人「考えながら走る」
スペイン人「走った後で考える」

これは西洋の古いことわざで、国民性と思考の仕方を表しています。

では、日本人はどうでしょうか?

「だれかの指示を受けないと走れない」

……あくまでも「ステレオタイプ」(単なるイメージ)ですが、雑談やスピーチの冒頭などで笑いを誘うユーモアとしてよく使われます。

一般に日本人は「受験型思考」であるといわれています。学校の試験や入試では必ず「答え」があり、そこで必要とされる能力は「決められた時間内に答えにたどりつく」ことです。

よって、「答えがわからない」ことはその人の「努力・能力不足」が原因とされ、ひいては「恥ずかしい」ことであるという考えにつながってしまいます。

ですので、日本人は「正解がないと不安になる」「まちがえると恥になるので人前で意見が言えない」という状態になりやすいという考えが出てくるのです。

一方で、21世紀に入ってから世の中にはデータが溢れかえり、デジタル技術やインターネットは急速に進化しています。多くの国々は、これまでに経験したことのない未曾有の変化にさらされています。

こうした時代には、「答えがある」ことを前提に考えるのではなく、「どのような未来になりうるのか?」という「正解がない」問題をどのように考え、解決していくかが求められます。

数ある答えのない問題に対する思考法の1つが、「ジレンマ思考法」です。

日本では「前門の虎、後門の狼」という言葉が象徴的です。「前に進めば虎と出会い、後ろに退けば狼と出会う」それでも「前に進むか後ろに退くかしかない」とすれば「いずれにしても恐ろしい結果となる」というような状況です。このように、2つの相反する事柄の板挟みになることを「ジレンマ」といいます。

こうしたジレンマの状況を論理立てて考え、答えを導き出すことを「ジレンマ思考法」と呼びます。ジレンマ思考を養うことで、実社会に見られる原発問題や環境問題に取り組む姿勢ができますし、裁判員に選ばれた場合などに的確な判断を下すのにも役立ちます。

 

「答えのない問い」の4つの種類

ジレンマ思考は、特に道徳(モラル)に関する学習方法に取り入れられていて、モラルジレンマ授業に関心が集まっています。モラルジレンマの学習法は、アメリカの道徳心理学者であるコールバーグによって発案され、世界各国の教育現場で導入されています。

モラルジレンマの特徴は、物語(実話もある)において2つの道徳的価値が対立するように描かれていることです。たとえば、「1人の生命と多数の生命のどちらが大切か」などの対立が題材として使われ、私たちを認知的不均衡(どっちつかずでスッキリしないモヤモヤした状態)に追いやります。

私たちは、こういったバランスの取れていない状態を不快に感じて、なんとかバランスが取れるように考えようとします。この不均衡から均衡へという頭の中の状態が、答えのない問題に取り組むための思考的成長であり、発達であるとされます。

モラルジレンマが扱う題材には以下のような「問い」が含まれていて、さらに深い思考につながるとされています。

(1)他者の立場で物事を捉える問い

「Aの立場であればこう考えるけど、それを知ったBはどのように考えるだろう?」
こういった問いで、さまざまな立場から物事を捉えます。

(2)行為の結果を推測する問い

「もし~したならば、どうなるだろう?」
こういった形で、人が何かをしてしまった結果、つまり何かを判断して実行した場合、その結果としてどんなことが生じるのか想像させていく問いです。

(3)認知的不均衡を促す問い

「横断歩道で交通事故に遭いそうな人を助けようとする時でさえ、信号は守らなければならないのか」
など、常識に働きかけていく問いです。認知的不均衡(もやもやした気分)はジレンマ思考のすべての問いに通じるのですが、とりわけその人の主張とは逆の立場のことをあえて発問したり、「そもそもどういうことなのか」を問いかけたりするものです。

(4)道徳的判断を求める問い

「あなたはどうするべきだと思いますか」
といった形で、是非が分かれる問題への判断がいついかなる時でも一貫性を持つかを問います。

モラルジレンマの授業は、以上のような問いで人の思考に揺さぶりをかけていきます。そうすると、人はなんとかしてスッキリとしたいので、「どちらかを選ぶ」という二者択一ではなく、「第三の道」を探し始めます。

つまり、答えのない問題にみんなが納得するようなアイデアをなんとかして考え始めるのです。

もちろん、現実生活の中では、どのようにしても両方を一度に解決できない問題が存在します。大事なのは、答えを見つけることではなく、「考え抜いていくこと」です。

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「トロッコ問題」による思考実験

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