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【伝える技術】 相手を思った伝え方とは

佐々木かをり(〔株〕イー・ウーマン社長)

2012年04月25日 公開 2022年11月14日 更新

【伝える技術】 相手を思った伝え方とは

《 PHPビジネス新書 『必ず結果を出す人の伝える技術』より 》
<写真:御厨慎一郎>

タクシーに乗ってまず「目的地」は不親切?

 たとえばタクシーに乗ったとき。運転手さんに何をどんな風に伝えていますか?

 私はなるべく短い時間と距離で目的地までスムーズに行ってほしいし、できれば1回の説明で連れて行ってくれればいいと思っています。

 だから乗ったときに、この運転手さんが運転しやすく、一番力を発揮できて、サッと行けるようにするには、どういう順番で伝えたらいいかなと考えます。

 私たちのオフィスは交差点のすぐ手前にあります。ですから、オフィスビルの前でタクシーを停めると、交差点までの距離が短い。そこで私は、まず運転手さんに、まっすぐ行ってほしいのか、左折なのか、右折なのかを、伝えます。

 乗車した瞬間には、あえて行き先を告げないのです。まず、この場ですぐに知りたいだろうことだけをいう。目の前の交差点までの距離を考えると、それが運転手さんにとって一番知らなければいけない情報だからです。

 私が六本木に行くのか、東京駅に行くのかは、交差点を曲がったあとに教えればいいことです。私はそのあと、信号の変わりぐあいや運転手さんの落ち着きぐあいを見て、「赤坂なんです」と、今度は大体の方向を告げ、次に「〇番地です」とか「××のビルの隣です」という風に伝えます。

 まず「赤坂」というエリアを想定してもらい、それから具体的な目印をいってあげることで、運転手さんは走りながら、だんだん近づいていくイメージができます。これを、いきなり「○○ビルに」といっても、運転しながらすぐに理解できないかもしれません。

  「伝えるんだったら、目的地をいえばいいでしょう」と思う人が多いかもしれませんが、会話は、相手に伝えるためにするもの。相手を動かすためにするのですから、状況に応じて情報を提供するのが、話し手の役目なのです。

 これは「大局を見る」「全体像をつかむ」ということと同じです。私は「俯瞰でモノを見る」と表現するのですが、話をするときに、まず相手が全体像を見えるようにし、いまはそのなかのどの部分を話しているのかを伝えると、わかりやすいのです。

 私がこのようにしてタクシーの運転手さんに道順を伝えていくと、たいてい「お客さん、運転するんですね」「お客さんのように、指示のタイミングと内容がうまい人は滅多に会ったことがない。運転しやすいですよ」といわれることが多いです。

 それは、交差点直前では話しかけない、赤信号で止まったときに伝えるなど、指示のタイミングや順番が、「運転しながら」という相手の状況を想像しつつ出しているものだからでしょう。

 自分が話すことによって、人にどう動いてほしいのか、状況がどうなってほしいのか。どういう目的、成果につなげたいのかを意図して話す、ということさえ身につけられれば、コミュニケーションは格段に進歩すると思います。これを意識してみると、タクシーも良い練習の場になります。

同じ伝え方でも通じない人がいる

 でも、同じ場所からタクシーに乗って、同じいい方で伝えても、なかには間違える運転手さんもいるのです。

 全然違うところで曲がられてしまうとか、何度いっても理解してもらえないこともあります。多くの運転手さんが「指示の仕方が上手」「運転しやすい」とコメントしてくれるのに、まったく同じタイミングで、同じ指示を出しても、間違える。

 そういうとき、私は「話し手が悪いわけではないという場合もあるのね……」と、少しホッとするのです。

 人と話していて、うまく伝わらないことがあると、当然ながら、自分が悪かったのだと思いますし、話し手である自分が訓練しなければいけないと反省もします。でも、なかには相手の力が及ばず、ということもあるのだと思います。

 タクシーのケースでいえば、すごく明確に、同じ場所から同じ言葉で同じ順番で説明をしても通じない人が、15人に1人くらいは巡ってきます。

 最近、どんどん増えてきました。これはどういう運転手さんかというと、圧倒的に、初心者が多い。そもそも道の名前や交差点の名前、もう少し大きくいえば、エリアの名前や、主要な建物などを知らない、という場合です。

 ですから、目の前にある「青山通りを左折してください」というと、「その通りになったら、教えてくださいますか」といわれたりします。表参道から渋谷まで地下鉄で1駅ですが、そこでタクシーに乗ろうとしたら「渋谷って、どちらですか」と聞かれたこともあります。

 この例からいいたいことは、「伝わらない」というケースで、聞き手に問題がある場合というのは、圧倒的に、聞き手の知識不足が原因だということです。

 上司のいっている単語がわからない。相手のいっている仕組みがわからない。全体像が見えない。ロジックがわからない。経験がないので、簡単なことなのか、難しいのか、まったくわからない。想像ができない、などなど。

 「わからない奴がいるなあ」と思うだけでなく、このようなケースを反面教師として、自分がそうならないように、「聞く力」を高めていきたいものです。

 ちなみに、タクシーのなかは、声の大きさや出し方を試す場にもなります。私の声は通らないので、以前は、タクシーに乗って、「○○に行ってください」というと、運転手さんに「え?」と聞き返されたり、振り返られてしまうことも頻繁にありました。

 そこで、タクシーで発声練習をすることにしました。練習というより、テストでしょうか。後ろの座席から「運転手さん、○○へお願いします」といって、スムーズに1回で「はい」といわれたら、「よし、ちゃんと声が通ってる」とわかります。

 「え!」と体を傾けて私に聞き返してきたら「今日はちゃんと声が通ってないんだな」と思い、次にもっと大きな声を出して伝えてみます。

 前を向いて運転している人に、後ろから話しかけてきちんと聞こえているかどうかは、自分の滑舌や、声の大きさや、聞き取りやすさをチェックする目安になります。

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