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OECDが示唆する教育政策の方向性とは



2012年05月08日 公開

亀田徹(政策シンクタンク PHP総研 教育マネジメント研究センター長)

 先月、5回目となる全国学力テストが実施された。2007年に全国学力テストが導入されるきっかけのひとつとなったのが「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)」である。2003年のPISAで日本の学力低下が明らかになったことが、全国学力テストの実施を促した。

 PISAの実施主体であるOECDは、その調査結果等を分析し、各国の教育政策に関する報告書をまとめている(経済協力開発機構(OECD)編著・渡辺良監訳『PISAから見る、できる国・頑張る国2 ―未来志向の教育を目指す:日本』明石書店,2012年)。
 報告書は、日本をはじめ2009年のPISA調査で上位にランクされたフィンランド、シンガポール、カナダ、上海、香港といった国や地域の教育政策を検証したうえで、日本への示唆を記述する。データや実例に基づく日本の現状分析として興味深い。

 そこでは、「日本の学校制度は学習成果の質や学習機会の均等な配分、費用対効果の点で、世界で最良のシステムに数えられる」としつつ、「世界の他の国や地域、特に近隣地域、すなわち上海、韓国、香港、シンガポールなどに対して確実に競争力を維持できるようにする必要がある」と指摘する。「2000年以降、学校間の成績差が大幅に拡大している」と日本の課題をあげ、「伝統的に高水準にあった日本の均等で平等な教育は今後、長期的に重大な試練にさらされるだろう」と警告する。

 一方、日本の長所として、たとえばつぎの点を報告書は掲げる。
 ・社会が教育に重きを置いていること
 ・生徒の認知的能力を発達させるのみならず社会的価値観を生徒に教え込むものとなっていること
 ・学習指導要領という教育基準が全国に普及していること
 さらに、「日本の教育の質で重要なのは教員の質の高さである」と述べ、日本の授業研究(教師間で指導方法の工夫改善を検討・実践する取組)について考察する。「この慣行が日本の学校で指導の質の向上に貢献しているのは疑いない」と授業研究の成果を高く評価する。

 これまで日本では、授業研究が教育政策上の主要課題になることは少なかった。授業研究の実施は、日常的な、あたり前の「慣行」であったからだ。
 けれども報告書は、「成績優秀な国は概して学級規模よりも教員の質を重視している」と強調したうえで、「日本はこの数十年間、教員の質に投資するよりも学級規模を縮減する方を優先する傾向にあった。今日では両者のバランスを調整する必要がある」と今後の方向性を示唆する。とすれば、授業研究を中心とする教員の質向上のための政策に本格的に取り組むべきではないだろうか。

 授業研究をより一層活性化させ教員の質を高めるには、効果的な授業研究の実施に向けたアドバイスなど、個々の学校に応じた具体的な支援が求められる。学校の状況に応じて支援すべき内容は異なるからだ。そうした学校ごとの支援を行うために、現在、教育委員会には指導主事が配置されている。指導主事は学校を訪問し、校長や教員に対して支援や指導を行う役割を担う。
 だが実態は、年間を通して指導主事がほとんど訪問しない学校もあるなど、指導主事による学校支援が十分に機能していないという問題が生じている。指導主事の支援能力を高めるシステムも確立しておらず、指導主事の能力レベルもまちまちである。
 したがって、各学校における授業研究のさらなる推進のためには、指導主事の人数や学校訪問の回数を増やし“学校支援の量”を確保するとともに、指導主事の支援能力を向上させ“学校支援の質”を高めることが必要と考える。

 OECDも示唆するように、これからの教育政策は、教員の質向上に重点を置くべきだ。そのためには授業研究の活性化が欠かせない。教育委員会による学校支援を改善し、授業研究をこれまで以上に充実させることが、子どもたちの学力向上につながるに違いない。

 

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<研究員プロフィール:亀田徹>☆外部リンク



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