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新将命 顧客が先か、社員が先か

2017年07月28日 公開

松下幸之助経営塾講義録

新将命

重要なのはトップの強いコミットメント

一流の講師陣による講義も「松下幸之助経営塾」の魅力の一つ。ここでは、卒塾生が定期的に集まって“志”を確認し合う「同志会」での講義の内容を抄録します(2012年10月27日収録)。
構成:荒木さと子
写真撮影:永島 寿

新将命(あたらし・まさみ)
国際ビジネスブレイン社長。1936年生まれ。1959年早稲田大学卒業。シェル石油(現昭和シェル石油)、日本コカ・コーラを経て、1978~1990年ジョンソン・エンド・ジョンソン(日本法人)。1982年より同社社長。1990年に退任後、国際ビジネスブレインを設立し社長に就任。その後、日本サラ・リー社長、日本フィリップス副社長、日本ホールマーク社長等を歴任するとともに、複数の会社で社外取締役も務める。

 

経営者の仕事は方向性を示すこと

最近、多くの企業へ講演に赴いて感じることがあります。部課長の口から疲労感、疲弊感、閉塞感という言葉が出るのです。昔も聞かれましたが、今ほどではなかったように思います。

なぜこういう言葉が頻繁に出るのか。原因を突きつめてみると、部課長の上司にあたる経営層が短期的な目標しか示していないことにありました。目先の売上と利益を示すだけで、会社の将来の夢を語っていない。遮二無二働いて利益を出すのは大事なことですが、人間はあまりにも目先の目標にばかり追われていると精神的に病んでしまいます。

仕事に不安や不平不満はつきものですが、トンネルの先に希望の光が見えていたら、それらはかなり減っていきます。日本の経営者、特に大企業の経営者たちは社員に光を見せていない。光とは方向性です。社員に対して方向性を示すことのできる人が経営者であって、示せない人は単なる管理者(マネジャー)にすぎません。

方向性とは、「理念+目標+戦略」です。理念とは“理想を念ずる”と書くように、われわれはどうなりたいのか(ビジョン)、誰のために何をするのか(使命感)、何が大切か(価値観)を示すものでなければなりません。

エジプトのピラミッド(教会ともいわれる)をつくる人夫の話は有名です。旅人が、石を運んでいる人夫に、何をしているのかと問いかけた。1人めは「石を運んでいる」と答え、2人めは「ピラミッドをつくっている」と答えた。3人めは「エジプトの文明を築く仕事の一翼を担っている」と誇らしげに答えた。やっていることは全く同じですが、3人めの人夫にだけはビジョンと使命感があった。きっと彼には石が軽く感じられたはずです。方向性を示すとは、そういうことなのです。

 

クレドに記された4つの責任の順序

理念について、事例を一つ紹介しましょう。

ジョンソン・エンド・ジョンソンという会社があります。アメリカに本社を置く多国籍企業で、私は1982年から8年間、日本法人の社長を務めました。ジョンソン・エンド・ジョンソンには、クレド(信条)があります。これは世界的に有名で、しかも世界的に尊敬されている企業理念の一つといえるでしょう。私がそれまで勤めていた会社を辞めてジョンソン・エンド・ジョンソンに転職した理由も、このクレドに魅せられたことにあります。

この会社は60数年間増収を続け、40数年間増益を続けています。まことに優秀な業績の企業ですが、その長期的な増収増益の根源には、このクレドの存在があります。このクレドには四つの責任が明確に記されています(以下、ジョンソン・エンド・ジョンソン「我が信条」より一部を抜粋)。

1)我々の第一の責任は、我々の製品およびサービスを使用してくれるすべての顧客に対するものである。
2)我々の第二の責任は、全社員――世界中で共に働く男性も女性も――に対するものである。
3)我々の第三の責任は、我々が生活し、働いている地域社会、更には全世界の共同社会に対するものである。
4)我々の第四の、そして最後の責任は、会社の株主に対するものである。

会社が果たす責任を、顧客、社員、社会、株主の順番に記しています。私はこのクレドに魅かれた一方で、疑問もありました。なぜ、株主への責任が最後なのだろうか。というのも、アメリカの経営者たちは、日本人が想像する以上に株主の顔色や株価を気にするからです。そこでアメリカ出張の際に、当時の会長に理由を尋ねました。答えはこうです。

「ジョンソン・エンド・ジョンソンは株式会社だから、株主が大切なのは当然である。しかし、株主への責任を継続的に果たすためには、まず顧客、社員、社会への責任を果たさなければならない。会長である自分を含め社員全員がこのクレドを心に刻み、この順番に沿って仕事をすれば、結果としてわが社にとって一番大切な株主への責任を継続的に果たせる会社になるだろう」

株主を4つの責任の最後に置いたのは、株主が最も大切だからこそ。そのための順番なのです。この会社の株主はほとんどが投資家です。投機家ではありません。投資家とは長期的に会社と運命をともにする覚悟を持った人たちです。

さて、お気づきになられたかもしれませんが、ジョンソン・エンド・ジョンソンが「顧客→社員」の順番にしているのに対し、私がつくった前出のフローチャートでは「社員→顧客」の順番になっています。私は約五十年間のビジネスの経験から、「CS(顧客満足)より、まずES(従業員満足)だ」という思いを強くしました。社員の幸せがあってこそ、お客様に満足していただける商品を提供できる、という考えです。

顧客が先か、社員が先か。この点にはそれぞれの信念があります。どちらの考えに沿えば、より自社の業績が伸び、勝ち残っていけるのか。経営者自身の信念を大事にすればいいと思います。

経営・マネジメント誌「衆知」

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発売日:2017年10月27日
価格(税込):1,080円

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