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日本一の庭園と大観コレクションを誇る美術館の挑戦~足立隆則・足立美術館館長

2018年02月20日 公開

マネジメント誌「衆知」

足立美術館
足立庭園美術館(館内の窓から)
 

本物だからこそ感動を伝えることができる

島根県の山間の地に、14年連続で「庭園日本一」に選ばれたことで有名な「足立美術館」はある。創設者の足立全康氏が七十一歳で開館したこの美術館は、来館者の低迷などの危機を乗り越え、横山大観コレクションや全康氏が心血を注いでつくり上げた庭園の美しさをひと目見ようと、大勢の人が足を運ぶ。なぜ、そこまで人々の心をとらえるのか。現館長の足立隆則氏は、全康氏の「感動する心を伝えたい」という遺志が生きているからだと語る。その真意とは。

写真撮影:白岩貞昭

足立隆則(公益財団法人足立美術館代表理事・館長)
あだち・たかのり*1947年島根県安来市生まれ。甲南大学経営学部卒業後、東京の企業へ就職し、美術館とは縁のないサラリーマン生活を送っていたが、祖父の足立美術館創設者・足立全康に嘱望され帰郷、美術館に勤務。’87年館長就任。2003年理事長就任。’11年より現職。’09年観光庁より「ビジットジャパン大使」に任命される。
 

日本一の美術館を故郷につくりたい

私の祖父である足立全康が、生まれ故郷である島根県安来市に足立美術館を開館したのは、昭和45(1970)年、71歳の時でした。

全康は14歳から大八車を引いて木炭を運ぶ仕事を始め、以来、艱難辛苦を乗り越えて大阪で繊維問屋や不動産関係などの事業を成功させました。

そんな全康が幼少期から興味を持ち続けていたのが、日本画でした。特に横山大観の作風に魅せられ、「雨霽る」という絵を画集から切り抜いて額に入れ、毎日飽きずに眺め続けていたそうです。

そして全康がもう一つ、若い頃から何より好きだったのが、庭づくりでした。絵が好きで、庭が好きで……人生の最後に、その二つの大好きなものに全身全霊で打ち込んでつくり上げたのが、この美術館だったといえるでしょう。

美術館が開館した年は、ちょうど私が大学を卒業し、東京でサラリーマン生活を始めた年でした。正直に言うと、当時はあまり関心がなく、「美術館をつくったらしいなあ」と他人事のように感じていたくらいでした。

開館後の1、2年は、島根県に美術館がなかったこともあってか、思った以上にお客さんに来ていただけました。「これだったらやれる」と皆が思った矢先に、地元の人の来館が一巡したためか、入館者が激減してしまいました。

そのため全康から、「地元頼りではどうにもならない。大阪の旅行エージェントを回って、慰安旅行でもなんでも来てもらえるように営業をしろ」と言われ、仕事を辞めて1年ほど営業活動をやりました。ところが、「美術館が何で営業なんてするんだ」とけんもほろろで、相手にしてもらえません。結局、私はまたサラリーマン生活に戻りました。

足立隆則・足立美術館館長

それでも全康は、「これが人生最後の仕事だ」「この美術館を日本一、いや世界一にしたい」と、美術館の運営に全力で打ち込んでいました。その姿を見ていると、「何か手伝わないといけない」という思いが湧いてきて、なんとか開館10周年にこぎ着けた昭和55(1980)年に、私も美術館を手伝う決心をしました。

開館当初は、建物も小さく、所蔵作品も少なくて、走って回れば5分ほどで出てこられるような、こぢんまりとした美術館でした。そんな美術館が、全国的に知られるようになった最初のきっかけは、開館9年目に横山大観の作品を一括購入したことでした。

全康はその前年に、名古屋の横山大観展で大観の「紅葉」という作品を見て、言葉も出ないほどの感動を受けます。なんとか手に入れたいと調べてみると、驚いたことに、あの「雨霽る」を含んだ20点程の大観の作品が、ある管財人の手にあることがわかったのです。

全康は、八方手を尽くして作品を購入すべく奔走します。そして2年がかりの交渉の末に、ついにこれらの作品を手に入れることができたのです。現在、当館には大観の初期から晩年に至るまでの約120点もの作品が所蔵されています。

全康は自叙伝の中で、これらの大観コレクションについて次のように述懐しています。

「足立コレクションの基盤となるものは近代日本画だが、その量、質ともに骨格をなすのは横山大観である。長年、大観の偉大さに心酔してきた私としては、本懐を遂げた気分である。(中略)そんな大画家と私のような落第生とが、絵を通じて縁を結ぶというのは何とも不思議としか言いようがない。人生に対する心意気と気構えにおいて、少しでも似通っているものがあるとすれば、これほど嬉しいことはない」

大観の作品が多数当館にあるというニュースが流れたことで、お客様が大勢見にきてくださるようになり、美術館の運営も少しずつ軌道に乗り始めました。もっとも、お金もないのに多額の作品を購入したので、経営的には大変なままでしたが。
 

※本記事は、マネジメント誌「衆知」2017年11・12月号、特集「感動を生み出す」より一部を抜粋編集したものです。


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構想力、実現力、人材育成力、人間力……。松下幸之助の哲学を学びつつ、現代に活躍する一流執筆陣の
実体験に裏付けられたメッセージから成功原則を読み解く経営・マネジメント誌