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漢方の使命に通底する幸之助哲学~加藤照和・ツムラ社長

2018年02月27日 公開

マネジメント誌「衆知」

加藤照和・ツムラ社長
 

加藤照和・ツムラ社長
かとう・てるかず。1963年愛知県生まれ。1986年中央大学商学部卒業後、津村順天堂(現ツムラ)入社。経理部門などを経て、2001年米国法人社長に就任。2006年広報部長、2011年取締役執行役員コーポレート・コミュニケーション室長を歴任し、2012年より現職。

聞き手:渡邊祐介(PHP研究所経営理念研究本部 本部次長)
構成:若林邦秀
写真撮影:山口結子

松下幸之助の人生と経営における哲学を、各界識者のインタビューから探る本企画。今回は、松下電器の経営経理の考え方を端緒に、幸之助の経営哲学を学んだというツムラの加藤照和社長に、その実践についてうかがった。
 

経営理念の継承のために

――経営においては現実的に結果としての数字が求められます。理念と業績とのバランスを取るにあたって、どのようにお考えでしょうか。

加藤 当社の創業者である津村重舎は、「良薬は必ず売れる」という信念を持っていました。その信念は、「いい薬は多くの人に使っていただかなければならない」という使命感に裏づけられていたと思います。もちろん、商売を始めたからには、資金繰りや規模の拡大など、様々な経営課題を解決していかなければならなかったでしょう。しかし、その背景には、「いい薬を多くの人に使っていただく。それが世の中の繁栄につながり、人々の幸せに貢献することである」という思いがありました。

現代の私たちも、そこは全く同じです。とにかく何でもいいから売れるものをつくるのではなくて、自分たちが売るべき薬とは何かを深く考える、すなわち「良薬を追求し、さらに進化させる」という信念を大切にしています。

経営では、やるべきことをやり、やらざるべきことをやらないという判断が極めて重要ですが、その拠り所となるのが経営理念です。経営理念をいかに浸透させるか。そして、理念にもとづいてビジョンを立て、計画に落とし込んで実行していく。それをあたかも自転車に乗るような自然な感覚で実行できるまで持っていくのが、今の私の経営のテーマになっています。

――理念の継承、そして人を育てることは、企業にとっての最重要課題かと思いますが、御社ではどのように取り組まれていますか。

加藤 幸之助さんは「松下電器はものをつくる前に人をつくる会社だ」とおっしゃっているわけですが、まさにそうだと思います。幸之助さんのエピソードを読むと、社員の心をくすぐるのが絶妙ですね。また比喩が素晴らしくてとてもわかりやすい。そういう叡智を少しでも学びたいと思いまして、年に一回開催している「“人のツムラ”づくりセミナー」で、今年は松下政経塾の理事・塾頭を務められた上甲晃先生をお招きし、幸之助さんの志、情熱といった目に見えない部分をお伝えいただきました。

例えば、幸之助さんは京都の真々庵でお客様をお迎えする際、「おもてなしの心」で隅々まで気を配り、座布団の表裏、前後ろを揃え、ピシッと糸を張るように真っ直ぐに並べておられたそうですね。こうした幸之助さんの息づかいが聞こえてくるようなエピソードにはなかなかふれることができませんから、大変貴重な機会だと実感しています。

そういった意味でも、理念を継承し、人を育てるにあたっては、やはり創業者の精神にふれることが最も重要だと考えています。どの企業においても、歴史を経るうちに創業者は次第に遠い存在になっていくものです。そのため、当社では創業者の足跡を学び、その精神にふれるよう努めています。

当社の創業製品の「中将湯」は、藤原鎌足の玄孫にあたる中将姫から伝わったという由緒があります。その感謝の思いと悲運のうちに生涯を閉じた中将姫を偲ぶ心から、創業者は自身の遺骨を中将姫ゆかりの尼寺に分骨しました。奈良にある青蓮寺というお寺です。私は毎年、4月10日の創業記念日前後に必ずそのお寺にお参りし、当社の原点を見つめ直すことにしています。

創業者がこの事業を軌道に乗せるまでには、幾多の苦難がありました。江戸時代は蘭方医と漢方医が併存していたものの、明治に入ると、西洋医学を学んだ者にのみ医師免許を与えるという制度になったことがその発端です。国会に「漢医継続願」が出されますが、1895(明治28)年に否決され、これによって漢方が一気に衰退することになりました。当社創業の2年後のことです。

その後、創業者は著名な漢方医の先生方と連携し、国や社会に対して「漢方の復権」を働きかけていきましたが、その間、大正時代には関東大震災という大災害があり、昭和になれば太平洋戦争もありました。これら数々の逆境を乗り越えて、ツムラの礎が築かれました。そして、1976(昭和51)年には当社の医療用漢方製剤が保険適用され、「漢方の復権」を成し遂げたのです。

毎年の新入社員研修では、必ずこういった話をします。次世代のツムラを担う人たちも、この思いを共有してほしいと願っています。

――理念や思いを共有し、深めていくにあたって、幸之助の考え方で参考にされたこと、実践されていることなどはございますか。

加藤 人間観や人生哲学などでも学ぶところが多く、理念を重んじる姿勢につながっていると思います。創業者がいる間は存在そのものが理念ですから、それをあえて文章化する必要はないのかもしれません。しかし2代目以降はそれが必要になります。そして、正しい経営理念を持つためには、その背後に正しい人間観の裏打ちが必要です。

その意味で、私は幸之助さんの『人間を考える』(PHP研究所刊)には計り知れない影響を受けました。ここには「新しい人間観に立って、伝統を生かしつつ革新へ、そして真の繁栄、平和、幸福を」とあります。

当社は「伝統と革新」を基本基調にしており、私たちツムラの姿勢と全く同じ考え方ではないかと鳥肌が立つくらいに共感しました。伝統とはそのままでは守れないものです。私たちは「伝統とは革新の連続である」と言っているのですが、幸之助さんも伝統を革新することで繁栄に向かうとおっしゃっています。こういう経営の根幹のところで、幸之助さんの思想は大きな指針を与えてくれます。

また、私自身でいうと、幸之助さんのおっしゃる「感謝報恩」の心がけを実践しています。例えば、先ほどの中将姫ゆかりの青蓮寺に寄進をさせていただくのもその一つです。

幸之助さんは、万物を創造する根源への尊崇の念から、「根源の社」を松下電器本社、真々庵、PHP研究所に設け、感謝と自省をされていましたが、その姿にも感銘を受けました。幸之助さんがそのように徹底して内省されたように、私も伊勢神宮に毎年参拝し、朝夕神棚に向かって手を合わせることで、少しでも感謝の心を行動に移すよう意識しています。
 

※本記事は、マネジメント誌『衆知』掲載シリーズ企画「幸之助さんと私」第3回より一部を抜粋編集したものです

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発売日:2019年12月27日
価格(税込):1,100円

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