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玉川学園理事長・小原芳明 「全人教育」で 時代変化に即応できる人材を輩出する



2018年03月19日 公開

高井昌史の 教育改革対談

紀伊國屋書店社長・高井昌史が、全国の有力学校法人トップと教育の未来を語る

共通母語を持たない外国人との仕事に活かせる英語教育、文系学生の活躍の幅を広げる理数教育――。1929年の学園創立以来の教育理念「全人教育」を現代社会に活かせるよう進化させ続ける玉川学園の取り組みを、小原芳明理事長に聞いた。

玉川学園理事長・小原芳明、紀伊國屋書店・高井昌史
 

小原芳明 おばら・よしあき
玉川学園 理事長 学園長、玉川大学 学長

1946年東京都生まれ。アメリカ・マンマス大学卒業。スタンフォード大学大学院教育政策分析専攻修士課程修了。1987年玉川大学文学部教授、1991年玉川大学副学長・玉川学園副学園長などを経て、1994年より学校法人玉川学園理事長・玉川大学学長・玉川学園学園長。創立者で祖父の國芳が掲げた「全人教育」を、現代に即したかたちで推進。著書に『ICTを活用した大学授業』(玉川大学出版部刊)などがある。

高井昌史 たかい・まさし
紀伊國屋書店会長兼社長

1947年東京都生まれ。成蹊大学法学部政治学科卒業。1971年株式会社紀伊國屋書店に入社。1993年取締役。1999年常務取締役、2004年専務取締役、2006年副社長を経て、2008年代表取締役社長に就任。2015年より会長を兼務。著書・編書に『本の力』『日本人が忘れてはいけないこと 国の礎は教育にあり』(ともにPHP研究所刊)がある。

取材・構成:江森 孝
写真撮影:長谷川博一
 

6・3・3制は絶対的なものではない

高井 理事長は高校在学中にアメリカに留学されていますし、向こうの大学を卒業後に日本に戻って働いたあと、スタンフォードの大学院で教育学を研究されました。やはりアメリカでの体験が現在の教育方針につながっているのでしょうか。

小原 それもありますが、最も影響を受けたのは学制についてです。日本では6・3・3制と決まっていますが、私が留学したボストンのロクスベリー・ラテン・スクールはアメリカ建国前の1645年創立です。日本でいう中高一貫教育の学校で7年生から12年生までいました。さらに、私がホームステイした家のご主人、この方は高校教師でしたが、彼いわく、アメリカには6・3・3制もあれば8・4制もあるし、1年生から12年生までの生徒がいる学校もあるとのこと。それが頭の中にずっと残っていて、学校を運営することになった時、6・3・3制が全世界共通のルールのように思われているがとんでもない、別のやり方でもできるはずだと思いました。それで考えたのが子供の心身の発達段階に合わせた4・4・4制で、やはりアメリカでの体験にもとづいています。

高井 4・4・4制という制度を聞いた時にはびっくりしました。でも、日本でも戦前は学制が柔軟に運用されていました。尋常小学校5年修了で旧制中学校に入学したり、旧制中学校4年修了で旧制高等学校に入学したりする「飛び級」もありました。

小原 4・4・4制は論理的には決しておかしくないのです。中高一貫教育は昔からあり、最近は小中一貫教育まである。それを、中学校を軸にすれば小中高一貫教育ができるわけで、この話は文部科学省でもしたことがあります。「法律で6・3・3制となっているから」と言われましたが、世界を見れば6・3・3制は絶対的なものではないし、さらに言えばあれは進駐軍の置き土産です。私どもが4・4・4制を実践した影響は少なからずあって、東京都でも遅ればせながら中高一貫に続き小中高一貫を始めるようです。

高井 そうしたユニークな学制に加えて、理数系の知識をビジネスの現場で活用できる人材に育成するSTEM(科学・技術・工学・数学)教育は本当に素晴らしいと思います。

小原 STEMは、欧米の大学ではかなり以前から定着していて、私はある学会に参加した際に知って興味を持ちました。同じ頃、日本でも文系学生にも科学技術教育をということが言われていたのですが、こちらは数学と工学が抜けている。そこで両者の違いを研究してみたところ、やはりこれから国を発展させるために必要なのは、科学、技術に加え、学問の基本である数学、それに工学であるという結論に達して、実現させたのです。

高井 そのSTEMに、貴校が以前から力を入れられてきた英語と芸術を加えたのがESTEAM教育ですね。

小原 はい。ある時、私が芸術系の教員とSTEMの話をしていると、彼が「これからの玉川では芸術は軽視されるのではないか」と言って寂しそうな顔をしました。でも、そこで彼と話したのは、どんなに製造業が発達したとしても、その器に美的センスがなければ世界で勝負できないということでした。今の日本の工業製品が苦戦しているのはまさにそれが原因で、性能ははるかにいいのに単なる器になってしまっているために、人気のある海外製品のように、感性をくすぐるものがないのです。だから、やはりアートは必要です。それに加え、これからの日本は英語抜きでは勝負できない時代になっていきます。それもスタンダードになるのはネイティブの英語でなく、リンガ・フランカ(共通の母語を持たない人同士のコミュニケーションに使われる言語)としての英語です。それが当校の全学共通の英語教育プログラムであるELFで、 ESTEAMという語順にしたのは、スペルは異なるものの、「尊重する」「尊敬する」という意味の“ESTEEM”に響きが同じだからです。

高井 最近は文理融合という言葉が使われていますが、科学・数学・工学に英語や芸術まで加われば、さらに大きな成果が期待できるのではないでしょうか。

小原 ええ。ただ、欧米でも芸術を取り入れてSTEAMにしようとしているものの、その融合には苦労しているようです。欧米では各分野を「サイロ」と呼んでいて、それぞれが一匹狼になっていると言われます。STEAMを実践するには、サイロを壊さないといけないし、校舎を新設する際にはSTEAMが一体になるように設計する必要があります。それが難しくとも渡り廊下で建物をつないで、これがESTEAMだとアピールすることです。当校でもESTEAMの概念に沿うよう、STEM系の教室のそばに芸術系や英語の講義に使う教室を並べる校舎を2019年に完成させるために、その設計をしているところです。

高井 なるほど。貴校では、文学部、農学部、工学部という3学部がベースとしてあり、そこから多くの学科が派生していますが、その壁を取り払おうというわけですね。

小原 学生たちにも「サイロは壊す。そうでないと、これからはやっていけない」と言いました。そもそもお金は大学全体で管理しているのですから、科目も全学共通であるべきです。学生には、異分野の勉強をする機会を提供するだけでなく、義務として勉強させなければいけません。なぜなら専門分野だけ勉強して他のことを何も知らないまま、その業界に入ってしまうと、例えば「モラルなき商売」のようなものも出てきてしまうからです。

高井 確かにこれまでの大学教育では、文系に入ったらもう数学や工学は要らない、あるいは理数系なら倫理学や哲学は要らないということでやってきましたからね。

小原 日本の場合、長い間文部科学省が文系と理系を分けた考え方をしていて、大学の設置基準もサイロ化されています。海外の大学ではそれが機能的でないという考え方に立っているので、日本も早くそれに気づいてほしいですね。
 

※本記事は、マネジメント誌「衆知」2017年11-12月号掲載《高井昌史の 教育改革対談》の一部を抜粋編集したものです。



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