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キリンビール高知支店の営業は、なぜそこまで頑張れたのか

2018年12月17日 公開

田村潤 × 田口佳史  

田村潤 × 田口佳史
 

悩みや苦しみも多い「営業」。だが、この道を極めたとき、人生の奇跡が訪れる! 低迷していたキリンビール高知支店を復活させた田村潤氏と、東洋思想家の田口佳史氏が語り合う営業の奥義とは? 
 

主体性を持たないと、営業は「つらい」ものとなる

田口 とかく営業というのは、一般的には、3K職場だと思われています。

もちろん、どの仕事にも悩みはついて回るわけですが、こと営業の仕事に携わった人は、どうしても壁にぶつかることが多い。誰かに買っていただかなくてはいけない仕事ですから、自分だけでどうこうできるものではありません。そこに様々な悩みも生まれてきます。

長年、その営業という仕事に携わってこられた田村さんから見て、営業はつらいものですか。

田村 「営業はつらい」といわれますし、私もそういう気持ちを持ったことはあります。

最初に営業配属された大阪支店で、口ベタの私は、商談前に入った喫茶店で暗い表情をしていたのでしょう。初対面のオーナーの奥様から「頑張んなさいよ」といっていただいたシーンを忘れられません。けれども、いまから振り返ってみると、つらい、きついと思うのは、「自分の主体性を十分に発揮できていないから」ではないかと思います。

上からいわれたことだけをやっているだけでは、おもしろみなんてありません。上からいわれた数字を、上からいわれたとおりに追いかけて、数字がいかずに怒られる。上からいわれたやり方でお客様を回って、お客様から怒られる。上からいわれたとおりに一生懸命にやっているはずなのに、怒られてしまうのですから、つらくて当然です。

キリン高知支店の営業も、かつてはそうでした。本社からいわれたことを、それなりに忠実にやっていたのです。しかし、まったくうまくいかない。一生懸命やっている仕事が何の役にも立たない。そのことをわかりながらやっている。ここにストレスを感じ、病人まで出てしまいました。本当に情けなかったです。

田口 10人のうち3人も病気になったということでしたね。

田村 そうです。色々と悩んだ末に、私がメンバーにいったことは、とても単純なこと。

「もう本社のせいにしないで、俺たちで考え、俺たちでやろう」。それだけです。

つまり、主体性を持つということです。それまでのように、上からいわれたことを、ただ一生懸命にやっているだけでは、何の工夫も生まれない。やりがいもまったく感じられない。追い込まれて、精神的に参ってしまいます。

主体性を持つと、自分で考えるようになります。もちろん本社からの指示はやらなければいけないのだけれども、それよりも、目の前にいるお客様にどうすれば喜んでもらえるだろうかと、真剣に考えるようになりました。

すると、お客様は「この人は、自分のために一生懸命に考えてくれている」と感じるから、お客様といい関係ができてくる。こうなると、色々とおもしろみが出てきて、だんだん、きついとは感じなくなってくる。むしろ、お客様にお喜びいただいた満足感や喜びが高まっていくのです。すると不思議なもので、いつの間にか数字がついてくるようになる。

主体性のない人間にとっては、営業はきついです。放っておいたら売れなくなる時代ですから、ものすごくきつい。しかし主体性を持てば、相手との関係をつくろうとするから、本社からの指示を、ただオウムのようにお客様に伝えるということではなくなる。

自発的に、お客様が何を考えているのか、何をしたいのかを聞いて、それに対して答えを持っていく。あるいは事前に予測し、準備しておく。そうすることで信頼関係ができ、結果的に売り上げが上がっていくのです。

田口 「東洋思想の観点からいうと、命が喜ぶことをすると、物事はうまくいく」と述べました。自分自身で考えて、工夫して、何かを生み出しているときは、自分の能力が発揮できていて楽しいと感じるのです。それは、自分の命が活発に動いていて、喜んでいる状態といってもいい。

田村 実感としてよくわかります。「お客様のためにやることが自分の使命だ」と考えると、意欲が湧いてきて、色々な知恵が出てきました。人間のあふれる潜在能力が、次々に開花していく感じでした。
 

お客様の声から「自分たちの天命」を知る

田村 主体性を持って現場を回りだすと、お客様のほうから教えてもらえることが多くなります。お客様は、「堂々としていればいい」とか「こうあってほしい」など色々と教えてくださる。だったら、お客様が思ってくださっているようなキリンになればいい、お客様の100%の期待どおりの会社になればいい、われわれの使命はそこにあると考えたのです。

それまでは、みんな普通のサラリーマンだから、上からの指示を一生懸命にやることが仕事だと思っていました。しかし、そうではなくて、お客様の期待どおりの会社になることが使命だと思うと、あとは、とにかくやるしかない。

田口 顧客が使命に気づかせてくれたということが、すごいところです。東洋思想の言葉を用いるならば、「天が知らせてくれた」ということです。ビジネスにおける「天」というのは「顧客」です。顧客の声から、「天命」すなわち「天から与えられた使命」を知ったということです。

田村 東洋思想ではそういう捉え方になるわけですか。使命だけでなく、すべて「天が知らせて」くれました。戦略もお客様から教えてもらったようなものです。お客様に「どうしたらいいですか」と聞くと、「人気のあるビールが飲みたい」という。「じゃあ、どういうふうになると、人気があると思いますか」と聞くと、ほとんどのお客様が「どこでも、いつでも、たくさん置いてあることだ」とおっしゃる。

それなら営業の力で、飲み屋さんでもスーパーでも、キリンがいちばん目立つところにある状態にすればいい。全国ではアサヒビールが人気があっても、高知ではキリンビールが一番だと、高知のお客様に思ってもらえばいいわけです。

お客様がそれを望んでいるのだから、そうしなければいけない。本社が何をいってこようと、お客様のご期待に応えることのほうが重要なのです。

どこに行っても、キリンが目立つところに置いてあるようにするには、高知の店を全部回らなければいけない。それまでのように、1つの店に20分、30分かけていると、全部の店を回れなくなる。稼働効率をどうするのかを考えて、1つの店を3分で回ろう、というような工夫が出てきた。

スーパーマーケットの棚も、全部キリンにしないといけないことになりますが、当時はアサヒビールのほうがはるかに勢いがあったから、売れないキリンのセールスの言葉はなかなか聞いてくれません。それでついつい、「今月は景品をつけますから、200ケースとってください」など、売り込むためのお願いばかりになってしまう。しかし、そんなお願いをされても、お店からすれば売れないものなど置きたくはありません。キリンが売れているときにはお願いを聞いてくれましたが、売れなくなったら誰も聞いてくれなくなります。

売り込もうと思っても無理だから、スーパーマーケットの方々のお話を一生懸命に聞くしかありませんでした。スーパーにはスーパーのロジックがあって、魅力的な売り場づくりをどうするか困っていらっしゃった。だから、一緒に売り場づくりを考えて、汗を流した。

2カ月や3カ月では、売り場の状況はもちろん変わりません。お客様はアサヒを飲みたいわけですからね。だけど、1年もすると、売り場がキリンに変わっていった。それで、キリンの売り上げが伸びていったのです。

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