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松下幸之助の全員経営論と「生産性倍増運動」~小さな知恵を結集し、大きな力に

2019年05月21日 公開

川上恒雄 (PHP研究所 松下理念研究部長)

松下幸之助

松下幸之助が重視した「衆知を集めた全員経営」は、自身が1961年に社長から退いたあとも、松下電器(現パナソニック)グループの様々な現場で実践され続け、組織力の強化をもたらしてきた。本稿では、1960年代後半の生産性倍増運動の例から、具体的に現場では何が行なわれ、それが幸之助の理念とどのように関連していたのかをみてみよう。
 

2年半で売上を倍に

松下電器産業第4代社長の谷井昭雄氏は現役時代、口癖のように「戦略は現場にあり」と語っていたという。創業者である松下幸之助の社長時代から、現場主義が組織のDNAのように浸透していたからだ。

大企業では一般的に、経営トップの方針が、組織の上層から最も離れた現場までなかなか一様には浸透しないものだが、松下電器の場合、ほぼそれが実現していたところに、組織としての強さがあった。

この点を理解するためには、典型的な事例を紹介するのがわかりやすい。そこで以下、1960年代後半に全社的に推進された生産性倍増運動をケースとして取り上げたい。

これは、1967年1月の経営方針発表会において、当時の松下正治社長が掲げた三大目標の一つ「創意工夫で生産性の倍増を」を推進する運動である。具体的には、1966年上期(5月期)を基準に、創業50周年にあたる1968年の下期(11月期)の売上を倍に伸ばすことを目標に据えた。2年半の期間中に人員が大きく増えなければ、生産性は倍になる。結論を先に言うと、運動の目標は見事達成した。

ただ、そのプロセスは厳しかった。かつて、1956年から1961年までの5年間で売上を4倍近くに増やすと計画し、1年前倒しでほぼ達成した松下電器だったが、家電市場が急拡大し、人員を大幅に増やしていた当時に比べると、目標達成が容易でないのは明白だ。

しかし、創業50周年に向けた目標ということもあり、運動は非常な盛り上がりをみせる。その指標として、提案件数の推移をみてみよう。

1966年度は約10万件だったが、67年度約17万件、68年度約32万件と、期間中に急増していることがわかる。なお、ここで言う「提案」とは、社員による改善提案のことだ。幸之助がかねてから強調してきた「衆知を集めた全員経営」の考え方にもとづき、1950年から全社的に推進されてきた。そして生産性倍増運動に伴い、あらゆる職場から多種多様な提案が上がってくるようになったのである。

 

女性も活躍した製造現場

提案の大半は製造現場からのものだった。製造関係の各事業場では、社員一丸となって効率化への取り組みがなされたのである。

生産性倍増運動が始まる直前の1966年11月に、部品事業本部が、品質管理の向上に貢献した団体に与えられるデミング賞(実施賞事業部賞)を受賞したことも、他の製造部門に大きな刺激となった。

当時会長の幸之助は、翌67年の社内誌で、次のように述べている。

「部品事業本部がデミング賞を受賞した。(中略)本部長、事業部長の力や考えだけでできたものではないと思う。また単に部長や課長がどれだけ努力したからできたというものでもあるまい。部品事業本部のみなさんすべての総意、総力によって、はじめて受賞が可能になったと思うのである。(中略)
もちろん、こういう姿は、ひとり部品事業本部に限らないと思う。最近は松下電器のすべての事業場において、みなさんそれぞれが熱意をもち、力をあわせて生き生きと仕事にうち込んでおられる。だれかれといわず、松下電器全体にそういう空気が盛り上がっているというのは、これは全くすばらしいことだと思うのである」(『松風』1967年6月号より)

製造の現場は、まさに幸之助が目にしたように、熱気にあふれていた。

例えば、洗濯機事業部。現場社員の提案量はすさまじく、一人あたり件数は社内でも群を抜く。その背景には、創意工夫を凝らしたユニークな取り組みがあり、メディアの注目を集めた。

洗濯機の組み立てには人手が多くかかるが、自動化も難しい。そこで「アリ作戦」を敢行。アリのように小さな改善提案を皆で出し合い、少しでも能率が高まるように努力した。実際、提案の一つひとつは、数秒程度しか作業速度の改善につながらないものが多かったものの、その積み重ねで大きな効果を実現したという。

そのほか、「ワンタッチ作戦」「掃討作戦」「積木作戦」「ピラミッド作戦」など、ユニークな名称の様々な「作戦」によって生産工程の効率化を進める一方、「デミング賞受賞のレベルにする」という事業部長の方針のもと、QC(品質管理)サークル活動を通して社員の能力向上や品質改善にも力を入れた。

メディアが特に驚いたのが、女性社員が生産性倍増運動の主役ではないかと思えるほど、よく知恵を出していたことだ。彼女たちは外部の取材に対して、「主婦の視点から提案するように心がけている」「休日は自宅にQCサークルのメンバーが集まって、改善案を話し合う」と答えるほどの積極姿勢だった。

製造現場における女性の活躍は、洗濯機事業部に限らず、全社的な傾向だった。幸之助ですら、提案件数のおよそ半分が女性社員からのものであると聞いて、驚いたという。

事実、多くの製造現場では、女性の一般社員らが、上司の命令によらず、自発的にQCサークルを形成し、活発に活動していた。職階や性差を問わず、全員で運動を盛り上げていたのである。

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