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「名代 富士そば」の成長を支える“情と理”の経営哲学

2020年01月06日 公開

マネジメント誌「衆知」

丹 道夫
 

丹 道夫(「名代 富士そば」創業者、ダイタングループ会長)
たん・みちお*1935年名古屋生まれ。幼少期から青年期にかけて愛媛県西条市で育つ。東京栄養食糧専門学校卒業。四度にわたる上京と挫折を繰り返し、苦労の末に’72年「名代 富士そば」創業、立ち食いそばチェーンの経営に至る。作詞家としての顔も持ち、ペンネームの「丹まさと」名義で歌詞を提供した演歌は多数。

 

心の機微をつかみ、現場と組織のやる気と知恵を引き出す

関東地区を中心に24時間営業の店舗をチェーン展開している「名代 富士そば」。その運営会社であるダイタングループは、アルバイト社員にもボーナスや退職金を支給し、現場のアイデアはどんどん採用するなど、「社員をとことん大切にする」をモットーに掲げる。また、分社化によって自律的な組織運営が行なわれ、経営者の育成も実現している。はたして、やる気と知恵を引き出す人材育成の秘訣とは。創業者の丹道夫会長に〝情と理〟の経営哲学をうかがった。

取材・構成:平林謙治
写真撮影:長谷川博一
 

40年前からアルバイトにもボーナスを支給

齢80を過ぎた立ち食いそば屋の創業者が最近、こうして雑誌や新聞にたびたび取り上げられ、柄でもないテレビ出演の話までいただくようになりました。平成も終わり、昭和などすでに遠い昔。その遠い昔に培った私なりの経営観や、36歳で立ち上げて以降ほぼ変わっていない「名代 富士そば」の商いの仕組みが、今の若い人たちには逆に物珍しく、新鮮に映るのかもしれませんね。

例えば、「富士そば」ではアルバイトにもボーナスや退職金が出ますし、有給休暇もありますが、これらは40年以上前から続けていることなので、今頃になって世間から驚かれ、「働く人に優しいホワイト企業」などと褒められると、むしろこちらがびっくりしてしまいます。新しい流行を追ったり、奇をてらったり、何か特別なことをやってきたつもりは毛頭ないのですが……。

そもそも人の本性に、古いも、新しいもないでしょう。いくら時代が変わっても、人間という存在を自然と衝き動かす原理原則が、そう変わるはずはありません。

経営のトップたるもの、事業の面では絶えず時流の変化を読む必要がありますが、こと“人づくり”や“人使い”の方針に関しては、その不変の原理原則に忠実でさえあればいい――私はそう考え、愚直に実践してきました。

もちろん、採用や教育、働き方などの具体的な仕組みやルールは、社会の情勢に応じて適宜調整されるべきでしょう。実は私が、本社で働く従業員の正確な就業時間を知ったのはつい最近のことです。冗談ではなく、それまで本当に知りませんでした。

現場の実情まで細かく把握したほうがいいのかもしれませんが、私が知らなくても、当社ではみんな一生懸命に働いてくれます。経営の本質は、決してそこにはないからです。

では、何が重要なのか。私が肝に銘じているのは、「人をとことん大切にする」という姿勢に尽きます。人材は、企業にとって一番大事な財産です。その宝を大切にしないで、他の何を大切にするというのか。アルバイトへのボーナス支給も、“ホワイト企業”云々といった難しい話ではなく、至極当たり前の経営判断にすぎません。

でも、そんな当たり前の道理が身に沁みてわかるようになるまでには、少なからぬ紆余曲折と浮き沈みがありました。

「富士そば」の経営にたどりつく前に、私は様々な職を転々としています。少年期を過ごした四国では八百屋や油屋に勤め、苦労の末に上京してからは弁当屋で働きました。炭鉱や印刷所に身を置いたこともあれば、弁当屋の起業を手始めに、不動産業や飲食業、水商売にまで事業の手を広げ、痛い目に遭ったこともたびたびです。

振り返ってみると、「働く人を大切にする」という当たり前の方針に至ったのは、そうした波乱万丈の経験を通じて、人間の本質的な弱さや哀しさを思い知り、それでも元気を出して前へ進んでいくにはどうすればいいのか、リーダーには何ができるのかと、真剣に考えるようになったからでしょう。兎にも角にも、みんなに元気を出してもらわなければ、店や会社は回らない。従業員自身の成長も望めないわけです。

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