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海軍甲事件と山本五十六

2015年04月18日 公開

歴史街道編集部

昭和18年(1943)4月18日、連合艦隊司令長官山本五十六がブーゲンビル島の上空で米軍機に撃墜され、戦死しました。「海軍甲事件」として知られます。

当時、航空兵力によるソロモン諸島、ニューギニア方面の敵艦隊を攻撃する「い」号作戦をラバウルで指揮していた山本は、作戦終了に伴い、ブーゲンビル島のブイン、バラレ島基地に赴いて、部下将兵を激励しようとします。

そこにはもう一つ、切実な目的がありました。米軍の反攻開始以来、海軍は陸軍に頼み込んで、17軍にガダルカナル奪回のため遠征してもらっています。しかし兵站補給が十分でなく、多数の将兵を戦病死、餓死させる結果となりました。

 やむを得ず駆逐艦をかき集めて、1万を超える将兵の撤退作戦(ケ号作戦)を成功させはしましたが、山本としては海軍作戦の責任者として、ブイン近くにいる17軍司令官百武晴吉中将に面会し、詫びを入れるとともにねぎらわなければ気が済まないという思いがあったのです。

72年前の4月18日は日曜日でした。早朝、ラバウル戦闘機基地では長官機直掩の6機の零戦が準備します。搭乗員は指揮官兼第一小隊長森崎武中尉、2番機辻野上豊光一飛曹、3番機杉田庄一飛兵長、第二小隊長日高義己上飛曹、2番機第二日岡崎靖二飛曹、3番機柳谷謙治飛兵長でした。

 午前6時。山本長官の乗機を含む2機の一式陸上攻撃機が離陸、次いで直掩の6機の零戦が飛び立ちます。7時30分を回った頃、ブーゲンビル島ブインの飛行場がジャングルの彼方に見えてきます。第一目的地のバラレまであと15分でした。

 その時、突如、アメリカ軍のロッキードP38戦闘機が襲い掛かります。彼らは18機でガダルカナルを出撃し、山本長官機を待ち伏せていたものでした。6機の直掩の零戦は、長官機を守ろうと応戦しますが、敵は2機の陸攻機を執拗に狙います。

 ほどなく山本長官が乗る陸攻機が、次いで2番機の陸攻機も火を噴きました。その時、護衛の零戦搭乗員の一人が長官機に接近すると、草色の第三種軍装を着て指揮官席に端座する山本長官が見え、白い手袋に軍刀をしっかりと握り、瞑目していたといいます。

 そして長官機は大きな炎に包まれると、錐揉み状態となってジャングルの中に墜落していきました。ブイン基地より数マイル北の地点です。また2番機も海上に落ち、波間に没しました。連合艦隊は山本長官以下、司令部の中枢人物の多くを一瞬で失ったのです。

 海軍の暗号が敵に筒抜けであったことから起きた、衝撃的な事件でしたが、その後も海軍は暗号が解読されていたことを認めようとはしませんでした。

 またこの日、長官機の護衛を務めた6人の搭乗員は、その後、いずれも最激戦地に送られています。暗に責任を取らせようとしたのでしょう。その中には撃墜王と謳われる杉田庄一も含まれていました。

 山本長官の戦死は「海軍甲事件」としてしばらく伏せられ、約1ヵ月後の5月21日、大本営は山本長官の戦死と古賀峯一長官の交替を発表しました。

山本のエピソードはさまざまなものが伝わりますが、二、三、紹介してみます。まず部下の死に接した時、彼はよく泣きました。

自分が育てた搭乗員が事故死した時、新聞記者の前で大粒の涙を流し、また別の部下が戦死して実家に弔問に訪れた時、悔やみを述べているうちに堪えられなくなって、声を上げて泣いてしまい、同行していた者に助けられて、辞去したこともありました。

また戦争末期に海軍病院を見舞った際、まだ幼さの残る少年航空兵が両眼を眼帯で覆っていました。

病院長によると視神経をやられた少年の視力回復は絶望的でしたが、それを言う病院長に対して山本は「日本医学の名誉にかけても治し給え」と厳しく告げ、少年兵には「帝国海軍は決して見捨てはしない。今度は飛行甲板の上で会おうよ」と語りかけたといいます。

またある時、連合艦隊の夜間演習で軽巡洋艦と駆逐艦が衝突し、駆逐艦が沈没する事故が起こりました。その責任をとって巡洋艦の艦長が自刃します。するとある大尉が「腹を切ったところでどうなるものでもない。生きて償いをした方が良かった」と言いました。

これを聞いた山本は怒ります。「死をもって責を果たすのが武士道である。君のような唯物論的な考え方は当世風かもしれんが、いざという時の役には立たぬ。人間の死を軽々に批評すべきではない」。

山本の人柄の一端が伝わってくるように思います(辰)

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