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松永安左ェ門~需要家第一に徹した「電力の鬼」

2017年06月16日 公開

歴史街道編集部

松永安左ェ門

今日は何の日 昭和46年6月16日

電力の鬼・松永安左ェ門が没

昭和46年(1971)6月16日、松永安左ェ門が亡くなりました。戦前戦後の電力業界をリードし、「電力の鬼」と呼ばれた人物です。

「人間はまず己の生活をたて、次に他人のため、その上で遠い社会国家に出来るだけ奉仕すべきものだ。そして各人が己の使命を知って、それを果たしていかねばならぬ」

松永がそうしたことを悟ったのは、無一文のどん底生活においてでした。 明治8年(1875)、長崎県壱岐の裕福な商家に生まれた松永は、15歳で慶應義塾に進学して福沢諭吉に師事しますが、一刻も早く世に出ようと学校を中退し、日銀マン、株屋などの職業を転々とします。しかし明治40年(1907)、33歳の時、株価暴落で破産し、さらに自宅を火事で失うという不運が重なり、神戸で借金取りに追われる生活となりました。この挫折の中で松永は、それまで成功は自分の智恵や才覚と自惚れていたが、実は人様の助けあってのことだったこと、にもかかわらず自分は儲けることしか考えていなかったことに気づき、冒頭の悟りに至るのです。それが松永の再スタートでした。

明治41年(1908)、松永は旧知の福沢桃介の後押しで広滝水力電気の監査役に就任したのを皮切りに、北九州で電力事業に従事していきます。当時は採算のとれない地域には電線を引いていなかったため、一般家庭への普及率は1割程度でしたが、松永は電気料金の大幅値下げを実施するとともに、市街地以外にも電力が行き渡るよう努めた結果、北九州は日本有数の電力先進地域となりました。松永はその方針を「需要家第一」と表現しましたが、いかに社会に貢献するかを重んじた顧客最優先の姿勢です。そこには「電力を国民にあまねく普及することこそ、自分の使命」という松永の信念があり、それは生涯不変でした。

大正10年(1921)、松永は北九州と名古屋付近をカバーする東邦電力の経営に参画、水力と火力併用の発電によって、頻発していた停電を撲滅し、同社を日本でも五指に入る大会社に押し上げます。また電力界の先を見据えた松永は、「超電力連係」構想を提唱します。すなわち関東は50ヘルツ、関西は60ヘルツという電力周波数を統一し、各地域を結んで相互に電力を有効活用すべきとしたのです。この問題は送電線の引き直しで莫大な費用がかかるため実現しませんでしたが、現在も直面している問題を彼はすでに見抜いていました。

昭和に入ると、官僚や軍部が「電力を国家管理すべき」と圧力をかけますが、松永は民営こそが「需要家第一」につながるとして抵抗を続けます。しかし昭和14年(1939)、電力は国営化され、松永は電力界から去ることになりました。 ところが昭和20年(1945)の敗戦で、71歳の松永に再び活躍の舞台が与えられます。焼け野原からの復興は、基幹産業である電力の安定的供給なしにはあり得ないという現実でした。

昭和24年(1949)、電気事業再編成審議会の会長に任ぜられると、電力を民営に戻すとともに、九つの民営電力会社による体制を実現。さらに昭和26年には、「3年にわたり電気料金を7割値上げする」とぶち上げます。これにはマスコミ、労組、経済団体が一斉に反対し、各地でデモが起きるだけでなく、脅迫文さえ届けられました。しかし松永は、10年、20年先の国民生活の向上を考えれば、電源開発への資金は必須であるとして、訴えかけ続けます。そして執拗な抗議に部下たちがひるむと、「良薬は口に苦しというだろう。憎まれ役は一切わしが引き受ける」と、進んで矢面に立ちました。そんな松永はいつしか「電力の鬼」と呼ばれるようになるのです。

やがて松永が唱えた値上げがようやく認められ、各電力会社の供給が安定すると、日本は経済発展を遂げていくことになりました。これもまた「需要家第一」の信念だったのです。

松永は昭和46年(1971)、97歳で大往生を遂げますが、彼が米寿の時に詠んだ歌は、「生きているうち 鬼といわれても 死んで仏となりて返さん」というものでした。今の日本の状況をどう思うか、松永に訊いてみたい気がします。

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