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阿南惟幾、自刃の真実~終戦工作をすすめた鈴木貫太郎との信頼の絆

2017年08月15日 公開

8月15日 This Day in History

今日は何の日 昭和20年8月15日

終戦の日 陸軍大臣・阿南惟幾が自刃

昭和20年(1945)8月15日正午、昭和天皇の終戦の詔書のラジオ放送、いわゆる玉音放送が行なわれ、日本国民にポツダム宣言受諾が伝えられました。昭和38年(1963)以降、毎年「全国戦没者追悼式」が行なわれています。戦争で命を落とされた方々に、哀悼の意を捧げたいと思います。

さて、昭和20年のこの日、陸軍大臣阿南惟幾が自刃しました。終戦工作をすすめた鈴木貫太郎内閣において、あくまで「徹底抗戦」を叫んだことで知られますが、真実はどうだったのでしょうか。

阿南の父は大分県の竹田市出身の内務官僚でしたが、阿南は明治20年(1887)、東京で生まれました。陸軍幼年学校、陸軍士官学校を卒業し、陸軍大学校の試験には3度失敗しましたが、それでも陸大を無事卒業。当時の陸軍内では珍しく政治的に無色で、昭和11年(1936)の2・26事件の折には「農民の救済を唱え、政治の改革を叫ばんとする者は、まず軍服を脱ぎ、しかる後に行なえ」と明言し、軍人は政治に関わるべきではないとしています。阿南は昭和17年(1942)に第二方面軍司令官、昭和19年(1944)には航空総監などを歴任し、昭和20年4月に鈴木内閣の陸軍大臣となりました。実は昭和4年(1929)、阿南が侍従武官を務めていた折、侍従長が海軍大将の鈴木貫太郎でした。以来、二人は天皇に近侍する身として、強い信頼で結ばれていたのです。

広島に原爆が落とされ、ソ連が参戦する中、鈴木首相はポツダム宣言の受諾をもって終戦とすべく、8月9日に最高戦争指導会議を開きます。すでに天皇をはじめ、東郷外相、米内海相らは国体護持を条件にポツダム宣言受諾で一致していました。ところが阿南と梅津参謀総長、豊田軍令部総長は国体護持の他に、保障占領をさせない、武装解除は自主的に行なう、戦犯の処罰も日本が行なうという3条件を主張して譲りません。そこへさらに長崎に原爆が投下されます。

やむを得ず鈴木首相は、御前会議で天皇の聖断を結論にするという手を打ちます。会議は10日の午前2時から宮中の防空壕で開かれ、天皇は「自分のことはどうなってもかまわない。今日となっては一人でも多くの日本人に生き残ってもらいたい」といういたわりの言葉で意思表示をされ、受諾が決定されました。会議後、吉積陸軍軍務局長が鈴木首相の聖断を仰ぐやり方に抗議しますが、阿南がたしなめます。そして「吉積、私は陛下に対し、ご意志に反対する意見を申し上げた。これは万死に値する。またポツダム宣言受諾となれば、この敗戦の責任は陸軍を代表して私が腹を切る。お前らは軽挙妄動するな」と釘を刺します。その気になれば、阿南が辞職することで鈴木内閣を瓦解させることもできましたが、阿南は決してそうしようとはしませんでした。阿南は会議での発言とは裏腹に、ポツダム宣言受諾しか道はないことはわかっていました。しかし「勝ち目がないから降伏しましょう」では陸軍が収まらず、内乱でも起こせばそれこそ国を破滅させてしまう…阿南はそれを防ぐべく命をかけていたのです。

ポツダム宣言受諾に対する連合国の回答が届いたのは12日朝でしたが、要点が不明確で、閣議や戦争指導会議は紛糾しました。一方、阿南の周囲では、中堅将校によるクーデター計画が具体化し始めます。13日の閣議では閣僚の大多数が終戦に賛同する中、阿南は本土決戦を唱える一方、会議の途中で陸軍省に電話をかけ、血気に逸る者たちを押さえています。そして14日、宮中防空壕での最後の御前会議で聖断が下され、降伏が決まりました。阿南の苦悩は内地外地含めて550万もの軍の動向です。これらの軍を秩序ある解体に導くには、玉音放送と、陸軍の代表者である自分の自刃しかないと見極めていました。

14日午後11時、阿南は鈴木首相を訪ね、「総理にはこれまで大変ご迷惑をおかけしました。深くお詫び申し上げます」と詫びると、鈴木は「あなたのことは私が一番よく知っているつもりです。ありがとうございました」と応え、別れています。そして鈴木は書記官長にぼそりと「陸相は、いとまごいに来たんだよ」と告げました。阿南の心情を痛いほどわかっていたのです。8月15日午前5時。阿南は三宅坂の陸相官邸で自刃しました。享年58。「一死以テ大罪ヲ謝シ奉ル」という遺書と、「大君の深き恵に浴し身は 言ひ遺すべき片言もなし」の辞世が遺されていました。

その少し前、一部将校がクーデターを起こしますが、すぐに鎮圧されました。阿南の死とともに、軍は解体されたのです。



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