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西郷隆盛は、時代を変革するには欠かせない"ジョーカー"だった

2018年01月06日 公開
2023年07月03日 更新

神田昌典(経営・マーケティングコンサルタント)

 

西郷は、なぜ慕われているのか

 では、清廉潔白ではなかったにもかかわらず、多くの人が西郷を慕うのは、なぜなのか。

 一つは、無私の人だったからでしょう。

 西郷がしばしば揮毫した「敬天愛人」という言葉の「敬天」とは、自分の運命を天に委ねるということ。つまり、天の視点という大局から見て、為すべきことを為す。いわば、「天の代理人」として生きるということです。自分の立場や利害を顧みることはありませんでした。

 そして、「愛人」というように、敵対する相手であっても、時代を推し進めるための共闘関係にある、という捉え方をしていました。どちらかが絶対的に正しいという見方をしません。清濁併せ呑む度量があったとも言えるでしょう。

 例えば、戊辰戦争で敵対した庄内藩士たちは、新政府軍に投降した際、切腹を覚悟しました。ところが西郷は、軽い処分で済ませます。

 そのことに感激した庄内藩士が、『南洲翁遺訓』をまとめます。そうした経緯でできた本ですから、『南洲翁遺訓』は、本当に西郷が話したことを書き記したというよりは、西郷に仮託して、日本人の美徳を述べている部分が多いのではないかと、私は思っています。

 このように、敵味方を分け隔てしない態度が、聖人君子のような西郷像が作られていった背景にあるのではないでしょうか。

 見る人によって、いかようにも解釈できる。これも、ジョーカーの特徴です。

 敵を赦すことを美徳とする考え方は、古くから日本にあるようですが、西郷はその大いなる体現者でした。その西郷の精神は、その後の日本人にも強い影響を与えているように思います。第二次世界大戦で日本を焦土と化したアメリカを日本人が赦したのも、西郷の精神を受け継いでいたからではないか、とさえ思います。

 結局、西郷とは何者だったのか。これは、端的に答えることが非常に難しい問いです。ただ、「天の代理人として生きた、意志の強いジョーカーだった」と言うことはできる。私は、そう思います。

著者紹介

神田昌典(かんだ・まさのり)

経営・マーケティングコンサルタント、作家

上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士(MA)、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士(MBA)取得。大学3年次に外交官試験合格、4年次より外務省経済局に勤務。その後、米国家電メーカー日本代表を経て経営コンサルタントとして独立。多数の成功企業やベストセラー作家を育成し、総合ビジネス誌では「日本のトップ
マーケター」に選出。2012年、大手ネット書店の年間ビジネス書売上ランキング第1位。ビジネス分野のみならず、教育界でも精力的な活動を行っている。
主な著書に『2022――これから10年、活躍できる人の条件』(PHPビジネス新書)、『ストーリー思考』(ダイヤモンド社)、『成功者の告白』(講談社)、『非常識な成功法則』(フォレスト出版)など多数。
アルマ・クリエイション株式会社代表取締役。一般社団法人Read For Action代表理事。

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