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山本五十六~部下を魅了した逸話の数々

2018年04月04日 公開
2022年08月09日 更新

4月4日 This Day in History

山本五十六
 

今日は何の日 明治17年(1884)4月4日
連合艦隊司令長官・山本五十六が生まれる

明治17年(1884)4月4日、山本五十六が生まれました。太平洋戦争開戦時の連合艦隊司令長官で、卓抜な実行力で戦争を指導したことで知られます。

山本については、いまもさまざまな評価が存在します。しかし特に、山本に直接接した経験のある人は、たいていその人柄に魅せられたと語ることが多いように感じます。今回は、山本の人柄を窺わせるエピソードをいくつか紹介してみましょう。

山本は明治17年、越後長岡藩士・高野貞吉の6男に生まれます。明治34年(1901)に海軍兵学校に入校。日露戦争の日本海海戦では、装甲巡洋艦日進に乗り組み、海戦中に左手の指2本を失う負傷をしました。大正4年(1915)、長岡藩家老の家柄である山本家を相続。高野五十六から山本五十六になります。アメリカ留学を経て、航空機に着目するようになり、海軍航空を牽引することになりました。 

さて、山本が海軍次官であった昭和14年(1939)のこと。山本は酒を飲みませんが、宴席での客のもてなしがうまく、宴会芸の皿回しなども、いつまでも落とさずに回し続けることができたといいます。

この年、アメリカ巡洋艦アストリアの乗組員の訪問を受けて、芝の料亭で接待した際には、山本の音頭で「ホースバック・ライディング競争」が行なわれました。日米両海軍が二手に分かれ、それぞれ座布団にまたがってその耳をつかみ、尻ですべって競争するものです。 山本が「レディー、スタート」と声をかけると、芸者たちが「金毘羅フネフネ、追風に帆かけてシュラシュシュシュー」と囃し、一同大爆笑で大いに盛り上がりました。

しかし当時、親米英派であった山本は、日独伊三国同盟締結に強く反対して、命を狙われるようになり、同年、連合艦隊司令長官に任ぜられて、海上勤務へ転じるのです。

太平洋戦争開戦後、山本は竣工成った戦艦大和を連合艦隊旗艦とし、やがてトラック泊地に進出、そこで乗組員とのさまざまな交流が生まれました。 山本は他の幕僚たちとは異なり、自分の褌を従兵に洗濯させることは一度もありませんでした。また山本が兵に私用を頼んだ時は、「お、ありがとう」と必ず礼を言い、時には虎屋の羊羹をくれることもあったようです。兵たちはそれを楽しみにしていました。

また、山本は南方でどんなに暑くても、純白の二種軍装を着用し、通路で出会った際には、兵士の挙手にきちんと挙手の礼を返します。その姿に、多くの兵士たちが畏敬の念を覚えました。

山本は小型の手帳を常に肌身離さず持っていましたが、そこには戦死した友人、部下たちの住所が書きとめられており、山本がいつも取り出して眺めているために、手帳は手ずれがしていたといいます。

辺見じゅんさんの『男たちの大和』にも紹介されているエピソードですが、ある夜、機銃員の内田貢が従兵を通じて、山本長官に呼び出されます。 内田が何事かと、おそるおそる上甲板の長官私室に出向くと、山本は寝間着姿のくつろいだ格好で、「ちょっと寝違えてしまってね。軍医長が柔道部員だったら簡単に治せると言うんだ。きみ、すまんがやってくれたまえ」。 内田は講道館の四段で、首の寝違えを治すなど朝飯前でした。終わると山本は「おっ、楽になった。内田くん、また頼むよ」と気さくに礼を言います。プライベートの場では、山本は誰に対しても、一対一の人間として接していたことが伝わってきます。

以来、内田はたびたび長官私室に呼び出されるようになりました。翌昭和18年(1943)に連合艦隊司令部が旗艦を大和から武蔵に変更し、山本も移ることになった時、内田に対し記念にと、茶掛の軸と、「五十六」と銘を彫った短剣を与えています。

その後も戦艦大和に乗り組んでいた内田は、山本の戦死後、レイテ沖海戦で重傷を負い、呉で入院していました。ところが昭和20年(1945)3月、大和が出港すると聞いて、山本から贈られた短剣を取りに大和に戻ったところ、大和はそのまま沖縄特攻に出撃。図らずも特攻に同乗してしまった内田は、しかし奇跡的に生還しました。とはいえ体内には無数の鉄片が残り、片目の眼球を失うという壮絶な姿です。戦後、台湾に行った内田は、空港の金属探知機で引っかかり、3人の屈強な係員に別室に連行されて、裸にされました。そして内田の全身に残る傷跡を見た係員の一人が、流暢な日本語で「戦争ですか?」と尋ねます。「そうですがな。戦艦大和に乗っとりました」と内田が答えると、3人の係員は即座に敬礼をしたといいます。

そんな内田は、何度も生死をさまよう大手術を繰り返しますが、夢うつつの中に必ず山本が現われて、励ましてくれると語りました。これもまた、山本の人柄を窺うことができる逸話のように感じます。

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