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上杉謙信~川中島での「単騎乗り込み」は本当だ!

2018年06月26日 公開

井沢元彦(歴史作家)

川中島の上杉謙信と武田信玄
 

川中島での上杉謙信「単騎乗り込み」は本当だ!

第四回川中島の戦いでは、上杉謙信は集められるだけの兵を集め、決死の覚悟で臨んでいます。その数1万3000。対する信玄は、総勢2万の兵で迎え撃ったと言います。この戦いは、その時点での史上最大の激戦だったと言われています。

戦場となった川中島というのは、犀川と千曲川がわが合流するところにできたデルタ地帯、つまり川の中州です。その中州で大規模な白兵戦が繰り広げられたのです。ちなみに、白兵戦というのは、双方が弓や鉄砲など、いわゆる飛び道具で戦うのではなく、刀や槍で直接兵が戦い合うことです。

このときの戦いは非常に激しく、合戦終了後、信玄は上杉軍を1万3000人中3000人討ち取り、対する謙信も武田軍を数千人討ち取ったと豪語しました。上杉軍の戦死率は23%、ほぼ4人に1人が戦死したことになる激戦でした。当時の戦争の戦死率はおしなべて低く、戦死率五%を上回ると多くの死者が出た激戦と認識されます。それが23%もの兵を失ったというのですから、ものすごい大激戦だったと言えます。

そんな大激戦の中、謙信にまつわる有名なエピソードが伝えられています。それは、上杉謙信がたった一騎で、本陣にいた敵の大将・武田信玄めがけて突っ込んだというものです。

騎乗したまま信玄めがけて刀を振り下ろす謙信、信玄は床几に座ったまま、とっさに手に持っていた軍配で、その斬撃を受け止める。しかし謙信の猛攻は続き、信玄は続く二の太刀で腕を、三の太刀で肩に傷を負った。そして後から軍配を調べてみると、謙信が斬りつけた刀の跡が七カ所もあった、というのです。そのことから、この一騎討ちの跡は、「三太刀七太刀の跡」と呼ばれています。

斬りかかる謙信と、その刀を軍配で受け止める信玄、その姿は、信玄の本陣が置かれていた八幡原に建つ八幡社に銅像として再現されています。

しかし、この一騎打ちを歴史学者の先生方は、「そんなドラマのようなことがあるわけない」と否定します。でも私は、100%とは言いませんが、事実だった可能性は高いと思っています。その理由は幾つかあります。

まずは謙信の人柄です。

普通の大将は決して一人で敵陣に突っ込んで行くようなことはしません。なぜなら、当時の戦いは将棋と同じで「王将(大将)」が取られたら即、負けが決まってしまうからです。

桶狭間の戦いを思い出してください。信長が僅か数千で今川軍2万に勝てたのは、その数千の兵を集中的に使って、敵の大将・今川義元の首をとったからです。

現代の戦争では、戦闘中に総司令官が戦死しても、副司令官がすぐに総司令官の役割を果たすというシステムが確立しているので、即負けが決まることはありません。でも当時は、そもそも大名同士の戦いなので、大将が討ち取られたらその戦は負けなのです。いくら兵が無傷でたくさん残っていても、ダメなのです。

ですから、戦国時代の大将は、本陣深く、最も安全な場所にいて采配を振るうというのがセオリーだったのです。

学者の先生方が「あり得ない」と言うのはこのためです。

確かに常識ではあり得ないことでしょう。でも、そのあり得ないと言われていることをやったのは、他ならぬ謙信だということを考えると、私は充分あり得ると思うのです。

というのも、上杉謙信という人は、自分は武神の化身だから決して死なない、と思っていたようなのです。

どういうことかおわかりでしょうか?

敵陣に大将が突っ込んで行ってはいけないのは、そんなことをしたら鉄砲や弓矢の的になって、死んでしまう確率が高いからです。でも、謙信は「自分は武神の化身なのだから決して敵に殺されることはない」と思っていました。ということは、死なないことが保証されていれば、敵陣に突っ込んでも大丈夫、ということになります。

信仰は、謙信という人を知る上でとても重要なファクターなのです。



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