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江戸の長屋で一番偉い猫のお話です

2018年10月02日 公開

田牧大和(作家)インタビュー

鯖猫
イラスト:丹地陽子
 

大好評「鯖猫長屋ふしぎ草紙」シリーズの著者・田牧大和さんに聞く

江戸の根津宮永町に、鯖縞模様の三毛猫が一番いばっている長屋があった。この長屋が舞台の「鯖猫(さばねこ)長屋ふしぎ草紙」シリーズが大好評。毎年3月と9月に新刊が刊行されている。
著者の田牧大和さんは、2007年に小説現代長編新人賞を受賞してデビュー。
これまで様々なタイプの時代小説を書いてきた田牧さんが、ミステリー、時代劇、猫と大好きな要素をすべて詰め込んだのが、このシリーズ。
時代小説ファンだけでなく、猫好きの心をもわしづかみにした田牧さんに、物語誕生秘話と、シリーズへの熱い思いを語っていただいた。
 

「俺様猫」が書きたい

――美猫(いろおとこ)サバと、飼い主である画描きの拾楽(しゅうらく)が主人公の「鯖猫長屋ふしぎ草紙」シリーズですが、サバがキュートでたまりません。この物語を思いついたきっかけは何だったのですか?

田牧 拙作「からくり」シリーズに、おっとりした白猫、大福(だいふく)を登場させたのですが、大福は沢山の人に愛していただきました。今度は対極にある猫を書いてみたいと思ったのが始まりです。大福は丸顔でどん臭くて、どこか犬のようなところのある猫だったので、サバは正真正銘、猫っぽい猫にしようと。俺様で、気まぐれで、我が物顔で(笑)。名前だけは、大福と揃えて、食べられる物にしてみました。

カバーの絵は丹地陽子さんが描いてくださっているのですが、これがかわいくて。次はどんなサバに逢えるのかしらと、毎回楽しみにしています。

――そのサバは、長屋で一番偉くて、住人たちを仕切っています。炊きたての白飯しか食べないわがままもの、という設定も面白いですね。

田牧 サバを「長屋で一番偉い猫」にしようということは、彼の性格が固まった時点で決めていました。彼が私に「当然自分が主役だろう」と訴えてきたので、しかたなく主役に(笑)。

元々「偉そう」だったサバが本当に「偉い」に変わったきっかけは、実際にあった事故、「永代橋崩落」を予見して、長屋の住人の命を救ったこと。以来、住人たちは「サバの言うことが一番」となったんです。彼は何でも見透かしていて、表立って活躍することもあれば、裏から糸を引いたり、飼い主を顎で使ったりすることもあります。全てはサバの気分次第ですね。

――サバの飼い主は、売れない画描きの拾楽です。一癖も二癖もある人物で、人には言えない過去も引きずっています。どうして相棒が、訳ありの画描きになったのですか?

田牧 「俺様猫」のサバと相性がいいのは、どんな人間なんだろうと考えたんです。わがままな猫に振り回されてばかりなのではなく、主人公自身にもサバに負けない魅力が欲しい。そこで、二つの顔を持つ男が生まれました。ふだんはぼんやりしているけれど実はできる奴、見た目は男前じゃないけれど、立ち居振る舞いはバリバリ男前。私、男前が好きなので、そこは外せませんでした(笑)。

田牧大和「鯖猫長屋ふしぎ草紙」
 

長屋で暮らす、ということ

――サバと拾楽が住む「鯖猫長屋」にも、魅力的な人物が多いですね。

田牧 世話焼き女房のおてるは、長屋のまとめ役です。おはまは可愛くて賢い娘。大工や魚屋、行商人と職業は様々ですが、その日暮らしなのは皆同じ。助け合って生きているところに訳ありの人間が越してきて、騒動が起きる。でもみんな、新しい住人をどうにかして受け入れようとするんですね。

――田牧さんは、長屋が舞台の小説を書かれるのは初めてですよね。

田牧 長屋は現代のシェアハウスと似ているようで違うんです。共同生活や人との繋がりを欲して集まるのではなく、当時の大多数の人々にとってはそれが当たり前の暮らし方だった。だからこそ、互いにうまく暮らすための気遣いや知恵が大切だったのでしょう。

江戸の長屋は、薄壁一枚隔てただけで話は隣に筒抜けです。だから、「口を出していいところ」と「踏み込んではいけないところ」の線引きを、各々でやっていた。その線引きに従って、お節介をしたり、知らないふりをしたり。現代とは違った「プライバシーの守り方」を面白く感じていただけるように、心掛けています。
 

キャラの濃い同心

――事件が起きると登場するのが、北町の定廻り同心・掛井(かけい)十四郎です。「成田屋の旦那」と言われるこの人物も、重要な役どころです。

田牧 「成田屋」は、ニックネームです。掛井は立ち居振る舞いが派手で、いかにも捕物が得意そうな同心。掛井を知る人は、当時から人気だった歌舞伎役者、市川團十郎の屋号で呼んでいます。團十郎は勇猛な芝居、荒事がお家芸でしたから。途中までは呼び名通りの男なのですが、やがて作者もびっくりの(笑)、別の顔を見せます。自信満々で怖いものなしのようですが、思わぬ弱点があって人間臭い。そのあたりはぜひ一巻を読んでみてください。

掛井は、実は男性から愛されているキャラクターなんです。意外な隙が、男心をくすぐるのかもしれませんね。
 

断章部分に込めた思い

――各話の冒頭部分にある断章にはどんな思いを込められたのですか。

田牧 「鯖猫長屋」シリーズは短編連作の形をとっているのですが、裏に一本別の大きな流れをつくって、長編としても楽しんでいただきたかったんです。断章は、そのための橋渡しの役割をしています。

――ミステリーで時代もの、猫が出てきて、おまけに様々な仕掛けが凝らされている――田牧さんが好きでこだわっていらっしゃることすべてが詰め込まれているこのシリーズ、今後どのような展開になっていくのでしょう。

田牧 拾楽の正体が、長屋の住人に知れ渡ってしまうのか。だとしたら、どんな切っ掛けで、拾楽はどうなるのか。そこが分岐点になるでしょうか。

書くごとに、私が登場人物と親しくなってしまって、正直誰も不幸になってほしくはないんですが(笑)。

――楽しみにしています。



著者紹介

田牧大和(たまきやまと)

作家

東京都生まれ。2007年、小説現代長編新人賞を受賞。『花合せ』と改題した受賞作で作家デビュー。著書に、「鯖猫長屋ふしぎ草紙」「藍千堂菓子噺」「濱次お役者双六」「錠前破り、銀太」「三悪人」「其角と一蝶」「からくり」の各シリーズ、『盗人』『まっさら』『八万遠(やまと)』『陰陽師 阿部雨堂』『恋糸ほぐし』など。
「鯖猫長屋ふしぎ草紙」(PHP文芸文庫)が、シリーズ累計16万部を超えるヒット作になる。
(上記写真撮影:永井浩)

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