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坂本龍馬の「自忘他利」の精神を世界に ~龍馬ファンの集い~

2018年11月13日 公開
2023年10月04日 更新

『歴史街道』編集部

誰もが「自分の龍馬」を持っている

そして休憩を挟んだのちに行なわれたのが、パネルディスカッションである。元日本テレビアナウンサーで高知出身である福留功男氏をコーディネーターに、黒鉄ヒロシ氏(漫画家)ビビる大木氏(タレント)美甘子氏(歴史アイドル)、そして尾﨑高知県知事と各界を代表する龍馬ファンが集まった。

冒頭では、それぞれが龍馬との関わりと想いの丈を述べた。

黒鉄氏 私は高知出身ですが、実家の前の通りが龍馬が脱藩した道。子どものころから龍馬が身近にいました。私が生まれた昭和20年代はまだ『幕末がすぐそばにある』感覚があったので、子どものころは自分の遺伝子のなかに『龍馬細胞』があると思っていたものですよ(笑)。

 誰もが『新選組が龍馬を殺したんだ』と叫んでいたころから『いや、違う』と思い、史料を集めて新選組の漫画を描き、そして龍馬の作品を発表しました」

大木氏 黒鉄先生と比べると私の「幕末歴」は浅いのですが、そもそも歴史に興味を抱いたのが15年前くらい。その後、「本を読むのもいいけれど、現地に足を運ぼう」と考えて日本中の史跡を巡りました。

 やがて高知県の土佐清水市にジョン万次郎記念館があると聞いて訪れたのですが、楽しく見学して満足のうちに帰ろうとしたら、資料館の方に「大木さん、そんなに万次郎が好きなならば、うちの名誉館長になりませんか」と声をかけられた。「そんなに好きなんですね」といわれても、僕はそのときに初めて訪れたんですよ(笑)。でもその大らかさがじつに土佐らしいと嬉しくなりました。

 皆さんもご存知のとおり、万次郎は間接的にせよ龍馬に大きな影響を与えた人物。そんな万次郎の記念館の名誉館長を打診されたのはとても光栄で、「私でよろしければお手伝いさせていただきます」とお答えしていまに至ります。

美甘子氏 私は幕末の歴史が本当に好きで、ありがたいことに『龍馬はなぜあんなにモテたのか』(KKベストブック)という本も書かせていただきました。じつは、父の誕生日が11月15日。そう、龍馬さんの命日と同じなんです。そんな縁もあって、父も龍馬ファンで実家には多くの関連書籍があり、私も自然と龍馬さんに興味をもちました。

 龍馬さんには、各地で親身にサポートしてくれる女性がいましたよね。乙女姉さん、佐那さん、お龍さん……。なぜ多くの女性が龍馬に惹かれたかといえば、私はとても筆まめで、相手の心を気遣える人だったからだと思います。そうやってモテる分、女性の目から見ると女泣かせな一面もあるのですが(笑)。

尾﨑氏 高知県の知事としてではなく、個人的な話をすれば、物心ついたときにはすでに近くに龍馬さんがいました。桂浜の銅像は大きく、まさに「凄い人」というイメージ。また若くして暗殺され、子ども心に「痛かっただろうな」と想像していました。その後、司馬遼太郎さんの「竜馬がゆく」を読んだのが中学生時代で、このときに初めて「自分の龍馬」になった気がします。メモを取りながら読んだのを、いまでも覚えています。

 大人になって驚いたのが、私のように「自分の龍馬」をもっている人が、世のなかにはこんなにも沢山いるのか、ということ。みんな自分なりの龍馬像を、自由に心のなかに描いているのですね。その懐の深さこそが、龍馬の最大の魅力ではないでしょうか。
 

世界に「自忘他利」の精神を

パネルディスカッションでは、互いが龍馬の魅力をぶつけ合った。なかでも、幕末史を追いかけ続けた黒鉄氏の言葉には、誰もが頷かされていた。

黒鉄氏 日本人はもともと地頭がいいんですよ。先ほど大木さんが話したジョン万次郎にしても、ボストンの大学に通いましたが非常に成績優秀だったらしい。

 龍馬もそう。彼は体系だった勉強はしていなかったのに、河田小龍の教えを理解しただけでなく、小龍の話の前後の文脈のおかしさに気付く力があった。そして、歳を重ねるごとに知恵や知識を得て、勝海舟のような人物にも出会った。

 龍馬をひと言で表せば「マージナル(境界人)」。つねに自由な発想をもち、ひとつの思想に偏ったり拘ったりすることがなかった。考えてみれば、勝にしても西郷隆盛にしても、維新を牽引した人物は皆そう。私は、その舵取り役が龍馬だったと思うのです。

ときには、大木氏より「龍馬が偉大なのは間違いない。でも、土佐には龍馬以外にも幕末の偉人がたくさんいる。土佐清水の万次郎が典型例です。私自身、土佐清水をもっと盛り上げていきたいと考えていますが、知事、どうでしょうか」と水を向けられた尾﨑知事が次のように返す場面もあった。
尾﨑 是非とも一緒に頑張りましょう。私の母方は土佐清水で、家族からよく「あなたもジョン万次郎さんのような立派な人物になりなさい」と言われて育ったものです。もちろん土佐清水に限らず、いまの大木さんの言葉にあったように、高知中から多くの偉人が生まれたことをより発信していきたいと考えています。

また、コーディネーターの福留氏からの「龍馬に影響を与えた人物についてはどう思いますか」という質問に対して、美甘子氏が「子どものころの龍馬さんを語るうえで欠かせないのが、継母にあたる伊与さんだと思うんです。『やられたらやりかえす』『自分から手を出すな』『男は優しく』が教育方針だったともいい、これが龍馬さんの礎ではないでしょうか」と親愛の情を込めて語った。

議論は白熱、テーマは縦横無尽。終盤には西郷隆盛の征韓論を巡って互いに意見をぶつけ合う場面も。この場は大木氏が「楽屋で続きをやりましょうか(笑)」と収めたが、それだけ龍馬、そして幕末の魅力は深く広く、語り始めたら止まらないということだろう。

坂本家10代目・坂本匡弘氏による「世界維新宣言」

その後の全国龍馬ファンの集い30周年記念イベントを経て、同イベントの締めくくりとして行なわれたのが、坂本家10代目・坂本匡弘氏による「世界維新宣言」、そして次回開催地である高知への大会旗引継ぎ式であった。

今イベントの題に掲げられている「世界維新」には、果たしてどんな想いが込められているのか。全国龍馬社中の橋本邦健会長は次のように述べている。

橋本氏 龍馬の精神をひと言で表わすならば、「自忘他利」。彼は自分を忘れて、他人に利益をもたらすために、常に前を向いて歩いて行った。だからこそ、時を超えてこんなに愛されているのでしょう。私は、そんな龍馬の精神を共有して、世界に広めたいと考えています。いまのような混沌とした世のなかにこそ、龍馬精神が必要ではないでしょうか。
 

次回開催は来年の秋。舞台は高知県だ。龍馬の故郷には、まさしく世界中から、多くの龍馬ファンが詰めかけるだろう。

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