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メディアが決して伝えない「世界からみた日本」

2018年11月29日 公開
2023年02月15日 更新

早坂隆(ノンフィクション作家)

日本に生まれたのは「宝くじに当たった」

――本書のタイトルに「路地裏を歩いて」という言葉が入っているとおり、とくに各国の一般の庶民の声が取り上げられています。

早坂 「名もなき人」というと語弊がありますが、市井の人々の声に耳を傾けるのが、私の取材の原点です。現地の人たちとひと言でも多く話をして、酒を酌み交わし、笑い合う……。

 私はそうして彼らの「本音」に触れようと努めました。ルーマニアのマンホールで暮らす子どもたちは、親に捨てられたり、ドラッグに関わったりしながら生きている。非常にナイーブな話なので、フラッと足を運んで話を聞いても口を開いてくれません。

 だから私は移住して、現地の言葉もイチから覚えて、来る日も来る日もマンホールに潜ったのです。するといつしか、「タカシ、また来たか」と心を開いてくれる。形式的な取材で話を聞いても、上っ面の言葉しか引き出せません。私自身、彼らから話を「聞く」のではなく、「聞かせていただく」という姿勢を大切にしました。

――世界各地を巡るなかで、最も印象的だった「本音」は何でしょうか。

早坂 一時期、日本ではネットカフェ難民という言葉が流行りましたよね。ただ、ネットカフェではインターネットができて、ソファがあり、空調がきき、ドリンクは飲み放題で、テレビを見ることができる……。これのどこが「難民」なのか。

 ある国の住民に話したところ、「一度でいいからそんな生活がしてみたい」と呟いていたのが印象的です。ルーマニアのマンホール・チルドレンのひとりは、「僕は日本に生まれたかった」と語っていた。とても重たい「叫び」です。やがて私は、日本に生まれたことは「宝くじに当たった」ほど貴重なことだったんだな、と感じるようになりました。

 もちろん日本だって、多くの問題を抱えています。でも、どの国にも多かれ少なかれ問題はあり、わが国は相対的にみれば少ない方でしょう。

 世界を巡れば、未だに貧困や独裁が蔓延っている「現実」が分かります。世界のスタンダードでいえば、国民が餓死しないだけでも合格なのです。それなのに、日本では宝くじの「当たり券」を持っているのに換金せずに無駄にする人が多い。

 日常に追われ、余裕がなくなれば日本の悪い部分ばかりが目につきがちですが、それでも私たちは十二分に恵まれており、数えきれないほどのチャンスが広がっている環境にいるのです。

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著者紹介

早坂隆(はやさか・たかし)

ノンフィクション作家

1973年、愛知県生まれ。著書に、『昭和十七年の夏 幻の甲子園』(文春文庫)、『世界の日本人ジョーク集』(中公新書ラクレ)、『愛国者がテロリストになった日 安重根の真実』(PHP研究所)、『永田鉄山 昭和陸軍「運命の男」』(文春新書)、『昭和十八年の冬 最後の箱根駅伝』(中央公論新社)、『新・世界の日本人ジョーク集』 (中公新書ラクレ)ほか多数。

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