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戦犯として処刑された東条英機の遺骨はどこに?

2019年04月29日 公開

河合敦(多摩大学客員教授)

殉国七士廟

殉国七士廟(愛知県西尾市)
東京裁判判決で死刑を執行された7名の軍人・政治家が祀られている。
 

遺骨は遺族に返還されず……

平成10年(1998)に公開された伊藤俊也監督の作品『プライド 運命の瞬間(とき)』は、東条英機元首相を描いた映画である。東条は戦後、太平洋戦争の遂行責任者としてA級戦犯容疑で起訴され、極東国際軍事裁判で死刑判決を受けた人物である。その東条を、この作品では英雄視しているのではないかという批判・反発が巻き起こり、かつて論争にまで発展した。それが本当かどうかは映画を観て個人が判断すればよいことであろう。

昨今、太平洋戦争をめぐってわが国では、さまざまな立場から激しい論争が展開されてきた。果たして何が正しいのか、偏することなくできるだけ多くの著作にあたり、自分なりの結論を出してゆくことが大切かと思う。ただ、過去の怨念やさまざまな言い分もあるだろうが、これからアジア諸国は手を取り合って進むべきだということに関しては異論はないだろう。過去も大事だが、未来はもっと大事なのである。

明治17年(1884)、東条英機は、陸軍の戦略家として有名な東条英教の子として生まれ、陸軍士官学校を出て、父と同じ陸軍畑を歩いてきた。非常に頭の回転が速く、優秀な仕事ぶりをみせたので「カミソリ」とあだ名された。

近衛文麿内閣の陸相として入閣するが、対米開戦をとなえて近衛とぶつかり、内閣を崩壊させた。その後、自ら内閣を組織した東条は、米英との開戦に踏み切った。

戦時中、国内で諸勢力を弾圧して独裁的な体制を築き上げたが、戦争で敗色が濃くなると、東条に対する不満が噴出、ついに首相を辞職に追い込まれた。

戦後、A級戦犯容疑で巣鴨拘置所に入所していた東条であるが、逮捕されるとき自殺未遂をはかったものの、拘置所に入ってからは起訴を覚悟したらしく、冷静さを取り戻している。その証拠として、平成9年(1997)に見つかった岸信介元首相の遺品「ミカン細工」があげられる。この細工品は、東条と同じくA級戦犯容疑で巣鴨拘置所に拘束された岸が、食事で出された夏ミカンの中身をくり抜き、その厚皮を干してつくった四角い壺である。その壺の表面に東条の手で大きく、「観自在」と墨書されている。岸の依頼で書いたものだろう。「煩悩が消え、すべてを自在に見通すことができる」という意味であり、仏教用語のひとつだ。起訴を前に、すでに達観の境地だったのかもしれない。

東条英機
東条英機

昭和21年(1946)5月3日、東条は起訴され、23年(1948)11月に死刑判決を受け、翌月23日、巣鴨拘置所内で絞首刑に処された。65歳だった。遺体は、横浜市西区の久保山火葬場で荼毘にふされたが、遺骨はただちに米軍がいずこかへ持ち去り、ほかのA級戦犯同様、遺族には返還されず、その行方も伝えられなかった。

ところが、『東京新聞』の平成8年(1996)8月10日付の朝刊に、遺骨は太平洋に散骨されたとする記事が載った。同新聞によれば、証言者は当時の関係者だった国家公務員で、公務員の守秘義務のため、名前を出すことができないとあるが、かなり確実な情報らしい。

記事によれば、昭和23年に刑死したB級戦犯の西沢正夫陸軍大尉の遺族が、遺骨返還の嘆願書を出したが、その回答としてGHQの戦犯仮釈放審査委員長のヘーゲル大佐が、外務省引き揚げ援護局の戦犯問題担当である井上忠男事務次官に、「戦犯の遺骨は回収不能である」と語り、大佐の好意として非公式に「実は戦犯の遺骨は、政治的な理由から飛行機で太平洋上に散骨した」と伝達してきたという。

そのため、西沢大尉の遺族には「米軍規定により戦犯刑死者の遺骨は遺族に返還されない」とだけ伝え、真相は伏せられたとされる。ではいったい、なぜ東条らの遺骨は海に撒かれたのだろうか。

いうまでもなくそれは、戦犯たちの骨が後の日本人から英雄視され、崇拝の対象となることに、GHQが大きな危惧を抱いたからであろう。

元中日新聞記者の平野素邦氏が東条の遺族から聞いた話によれば、昭和30年(1955)に政府から遺族に宛てて白木の箱(遺骨を入れる箱)が届けられたが、なかには骨も灰もなく空だったという。

実は、骨は海に撒かれてしまったのだが、遺体の灰については、当時のA級戦犯弁護団の一人、三文字正平弁護士が、久保山火葬場の飛田場長に密かに頼み込んで、A級戦犯7人のまじり合った灰をかき集め、熱海市伊豆山の興亜観音堂と愛知県三河湾公園の山頂に立つ「殉国七士の墓」に納めたと伝えられる。

※本稿は、河合敦著『テーマ別で読むと驚くほどよくわかる日本史』(PHP研究所)より一部を抜粋編集したものです。



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