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白村江では「矛」が勝敗を左右した!?

2019年09月30日 公開

山田勝監修『武器で読み解く日本史 』(PHP文庫)より

武器で読み解く日本史

たった一つの武器の誕生が、日本の歴史を大きく変えた!

山田勝監修 『武器で読み解く日本史 』(PHP文庫)では、古代の弓・矛・剣から、近代の戦車・戦闘機まで、日本史に登場する武器・兵器が、いつどのように生まれ、時代にどのような影響を及ぼしたかを解説しています。本稿では、その一部を抜粋編集し、「武器」という視点から日本史を見直します。

今回は、神話に登場し、古代日本の対外政策にも関与しながら消えていった長柄武器「矛」をとりあげます。
 

日本の国土を作った天沼矛

古代の日本において、矛がいかに重視されていたかは、『古事記』や『日本書紀』の記述からもうかがえる。日本の国土の成り立ちを説明する「国産み神話」において、矛が重要な役目を果たすのだ。

イザナギとイザナミの二柱の神が高天原の神から授かった天沼矛(あまのぬぼこ)で渾沌とした大地をかき混ぜたところ、矛の穂先からしたたり落ちたものが積み重なってオノゴロ島じ まができた。これは、地上世界にはじめて誕生した硬い大地であり、二神はこの島に降り立つと、本州や九州、四国など日本の国土を次々と産み出していった。

――もちろんこれは神話であって、史実ではない。『古事記』や『日本書紀』は、矛が日本に入ってきた弥生時代からかなりあとの奈良時代に成立したものだ。

しかし、日本の国土が誕生するときに使われたとされる道具が、剣でも弓でもなく矛であるというところから、この武器が日本人にとって特別なものであったことがわかる。
 

白村江で日本軍を苦しめた鉤つきの矛

矛の使われ方は、発祥の地である中国と日本では違いがあった。中国では、歩兵や騎兵も矛を使ったが、なんといっても馬がひく戦車(戦闘用馬車)に乗った兵に欠かせない武器であったのだ。

中国戦車兵たちは、敵戦車とすれ違う際に矛で斬り結び、また敵戦車の御者(馬を操る人)などに斬撃を加えた。

矛が伝わってきた弥生時代には日本に馬はおらず、矛はしばらくの間、歩兵の武器としてのみ使われた。

古墳時代の4世紀中ごろになって、ようやく馬が大陸から輸入されると騎兵も矛を使用するようになるが、日本では結局最後まで大陸のような戦車が使われることはなかった。そういう意味では、本来の使われ方とは違ったのである。

中国が矛の本場であり、やはりその使い方や武器自体の進化に一日の長があったことは、白村江の戦い(663年)の様子からも推測できる。

この戦争で、日本は百済に援軍を送って唐・新羅連合軍と戦った。日本の水軍が唐の水軍に大敗を喫したことで、日本は朝鮮半島への影響力を低下させる。このとき、唐軍の主要な武器として日本軍を苦しめたのは、鋭い鉤(かぎ)のついた矛だったという。

鉤つきの矛は、鉤の部分で騎乗者をひっかけて落とし、突き刺すといった使われ方をしたと考えられている。これは、当時の日本にはない使われ方であった。その後、日本でもさかんに鉤つきの矛が作られるようになり、そのうちのいくつかは正倉院に残されている。

もし白村江の戦いで日本が勝っていたら、東アジアの歴史は大きく変わっていただろう。つまり、矛の優劣が日本の対外政策や進むべき道を決定したともいえるのだ。

白村江の戦いに敗れたことで、朝廷は唐が日本に攻めてくるのではないかと恐れるようになった。そこで、九州沿岸部を防衛するため、防人が置かれるようになる。

民衆から徴兵される防人の任期は3年だったが、しばしば延長された。奈良時代に成立した『万葉集』には、防人とその家族の苦労や悲哀を詠よ んだ歌が多数収録されており、それらは防人歌と呼ばれている。

その防人が手にしていた武器も矛であった。ちなみに、防人は強制的な徴用にもかかわらず、武器と食料にかかる費用は当人持ちだったという。それらの費用もまた、防人に選ばれた者にとっては重い負担となった。

ともあれ、古代から奈良時代ごろまでは、矛が戦場で中心的に使われ続けていたのである。



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