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第48代・称徳天皇の皇位継承~宇佐八幡宮神託事件と和気清麻呂

2019年12月09日 公開

吉重丈夫

宇佐八幡宮神託事件

7月、道鏡の弟・弓削浄人が大宰帥に就く。彼は兄の弓削道鏡を皇位に就けることが神意に適う旨の宇佐八幡宮の神託を奏上し、「宇佐八幡宮神託事件」を引き起こした。

宇佐の神官を兼ねていた大宰府の主神(かんづかさ)・・中臣習宜阿曾麻呂(なかとみのすげのあそまろ)が道鏡に媚びて、宇佐八幡神の神託として、「道鏡を皇位に就かせれば天下太平になる」と天皇へ奏上した。

そこで、これを確かめさせるべく、和気清麻呂が勅使として宇佐八幡宮に派遣される。

清麻呂は宇佐八幡宮で「此度伺った宇佐八幡宮の教命は朝廷の大事であり、信じ難い内容である。願わくば格別神の意思を示せ」と訴えると、突如として神が三丈(6メートル)ほどの満月のような形をして現れた。清麻呂は吃驚して度を失い、仰ぎ見ることすらできなかった。

そして、「我が国は開闢より君臣の秩序は定まれり。臣下を君主とすることは未だかつてなかった。

道鏡は人の道にもとり皇位に就こうとの野望を抱いている。神はその野望を聞き届けるようなことはしない。汝は朝廷に戻り、私が言った通りを天皇に奏上せよ。皇位は必ず皇孫が継ぐのである。汝は道鏡の怨みを恐れてはいけない。私が必ず助けるであろう」との神託を受けた。清麻呂は朝廷にこれを持ち帰り、先の託宣は虚偽であると復命した。

清麻呂が教命通りに奏上すると、天皇は意に反する思いはしたが、清麻呂を処刑する気持ちにはならず、清麻呂を因幡員外介に左遷し、ついで「別部穢麻呂(わけべのきたなまろ)」と名を変え大隅国へ流した。道鏡は人を差し向け、途上で清麻呂を殺そうとした。しかし雷雨で辺りが暗くなり、殺害される前に勅使が遣わされ殺されずに済んだ。参議の藤原百川は清麻呂の熱い忠義に同情し、備後国の封20戸分の収益を配所に送り届けた。

大隅国流刑地の鹿児島県霧島市牧園町に清麻呂を祭神とする和気神社が創建されている。嘉永6年、薩摩藩主・島津斉彬公が清麻呂の流刑地を調査確定し、のち昭和21年この地に和気神社が創建された。

この年10月1日、称徳天皇は遂に詔六一九「……皇位というものは、天が授けようと思われない人に授けては保つことも出来ず、また却って身を滅ぼすものである。朕が立てた人であっても、汝の心で良くないと知り、自分の目に適う人を新しく立てることは心のままにせよ(道鏡には皇位は継がせない)……」を発せられ、皇位継承に関する一連の事件(宇佐八幡宮神託事件・道鏡事件)は決着した。

さすがに称徳天皇もこの状況下では道鏡を皇位に就けることはなさらなかった。「天壌無窮の神勅」はこうして遵守された。

孝謙=称徳天皇と弓削道鏡にまつわるこの宇佐八幡宮神託事件は、皇統に関する日本史上最大の事件であったことは間違いない。そして和気清麻呂の忠義によるところ大であるが、最終的にはやはり孝謙=称徳天皇の決断によって解決を見ている。

翌年皇紀1430年=神護景雲四年(770年)8月4日、称徳天皇が平城宮で崩御される。在位6年、宝算53歳であった。この日、孝謙=称徳天皇は「白壁王を皇太子に定め給ふの遺宣」を発せられた(詔第六二三詔)。

左大臣・藤原永手(藤原北家の祖・藤原房前の次男)、右大臣・吉備真備らが禁中で協議し、白壁王を皇太子に推挙する。皇統の危機に当たって、和気清麻呂はもちろんのこと、藤原永手と吉備真備が重要な役割を果たしている。

孝謙=称徳天皇崩御に当たっては、聖武天皇の皇女・不破内親王の呪詛の効果があったとか、因果応報とか、とかくの噂があったが、いずれにしてもこれからのち、後水尾天皇の皇女・明正天皇(在位皇紀2289年~2303二年)誕生まで、850余年の間、再度女性天皇が立てられることはなかった。

皇位継承問題についての歴史上での最大の事件はこの道鏡事件であった。というのは、これが間違えば万世一系の皇統は途絶えていたからである。それが和気清麻呂の勇気により皇統は維持できたのである。

孝謙=称徳天皇は淳仁天皇や皇太子・道祖王を廃し、天武系の諸王を獄死させたり配流に処したりし、遂にここで天武系の後嗣がおられなくなり、皇位は天智系の皇統の人・白壁王に移っていった。

8月21日、皇太子(白壁王)は「道鏡を造下野国薬師寺別当に任じ派遣する」との令旨を下された。

22日、弓削浄人とその息子達を土佐国に流した。朝廷を混乱させ、国体を揺るがした弓削道鏡事件がここに終息した。

9月6日、和気清麻呂と広虫(清麻呂の姉)が大隅国と備後国からそれぞれ召して京に戻された

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