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「将軍を暗殺した男」公暁は、なぜ凶行に至ったのか



2020年12月16日 公開

坂井孝一(創価大学文学部教授)

鶴岡八幡宮
鶴岡八幡宮(神奈川県鎌倉市)

日本史上初の本格的な武家政権である鎌倉幕府では、創設者頼朝の源氏の血統は三代で途絶え、継承されなかった。

その断絶に至るまでの幕府内の権力闘争の歴史を描いた1冊、坂井孝一氏による『源氏将軍断絶』より、三代将軍実朝を暗殺した男「公暁」の生い立ちについて触れた一節をここで紹介する。

※本稿は、坂井孝一著『源氏将軍断絶』(PHP新書)の一部を抜粋・編集したものです。

 

二代将軍頼家の遺児公暁

まず、公暁(こうぎょう)について確認しておきたい。公暁は二代将軍源頼家を父として正治2年(1200)に誕生した。幼名は「善哉」、奇しくも将軍候補の雅成親王と同年生まれである。

母は、三河国足助荘を本拠とする尾張・三河源氏の賀茂重長の娘、頼朝が頼家の「室(正妻)」に選んだ女性であったと考えられる。つまり、公暁は頼家の嫡子として生まれた可能性が高いのである。

ところが、2歳年上の兄一幡の母は、武蔵国の有力御家人で頼家の乳母夫である比企能員の娘、若狭局であった。若狭局は「妾」であったが、頼朝の死後、頼家と能員が一幡を嫡子扱いしたため、公暁は微妙な位置に立たされた。

建仁3年(1203)9月、公暁4歳の時に比企の乱が起こり、比企一族、一幡が殺され、翌年には頼家も修禅寺で惨殺された。比企氏とつながりのない公暁は殺されることはなかったが、二代将軍の嫡子として生まれながら、全く別の道を歩まなくてはならなくなった。

ちなみに、公暁の乳母夫は『吾妻鏡』建永元年(1206)10月20日条によれば三浦義村だったという。ただ、公暁が誕生した時、父の二代鎌倉殿頼家はすでに左近衛中将に任官し、禁色(位階や地位によって着用を禁止された服色・服地)も許されていた。

乳母夫が義村一人であったとは考えにくい。義村が乳母夫になったのは、比企の乱で他の乳母夫が没落した後だった可能性もある。とすると、政子が源家の家長として義村に乳母夫を依頼したとも考えられよう。

政子は、元久2年(1205)12月2日、6歳の公暁を鶴岡八幡宮の別当尊暁のもとに入室させ、門弟とした。鶴岡は源氏の氏神を祀る社であるが、神仏習合が著しく進み、供僧たちが日常的に仏事を営む宮寺であった。

別当も僧侶であり、初代が円暁、尊暁は二代目である。『鶴岡八幡宮寺社務職次第』『鶴岡社務記録』は、公暁の最初の法名を頼暁と記す。頼家の「頼」と尊暁の「暁」の組み合わせである。

ところで、鶴岡八幡宮は、「曩祖将軍」頼義が石清水八幡宮を勧請して由比郷に建立した由比若宮に始まる。治承4年(1180)10月、鎌倉入りした頼朝は「祖宗を崇めんがため」、ただちに若宮を小林郷に遷座した。

現在の鶴岡八幡宮境内、舞殿の北東付近の地であったと推定される。その後、建久元年(1190)の火災で焼失するが、頼朝は裏山に新たに壮麗な本宮を造営して上宮とし、石段下に再建した若宮を下宮とした。これ以後、社殿や供僧たちの住坊が十数年かけて整備されていった。

しかし、人材や制度の面では、建保年間(1213~1219)に至っても発展途上にあった。政子が頼暁、後の公暁を尊暁の弟子にしたのも、いずれ二代将軍の遺児に別当を継がせ、そのもとで亡き夫の遺産である鶴岡を発展させようと考えたからであろう。

さらに政子は、翌建永元年10月20日、7歳の頼暁を実朝の猶子にするよう取り計らい、将軍と擬制的親子関係を築かせて後援した。義村が乳母夫として史料上に現れるのはこの時が最初である。

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