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太宰治も自説を展開…2022年大河主役・北条義時の人物像とは?



2021年01月03日 公開

末國善己(文芸評論家)

北條寺(伊豆の国市)
北條寺(伊豆の国市)

2022年のNHK大河ドラマが、三谷幸喜の脚本で、鎌倉幕府を盤石にした二代執権・北条義時を描く『鎌倉殿の13人』に決まり、豪華キャスト陣が早くも話題となっている。

鎌倉幕府の執権となった北条家の当主は、代々「得宗」と呼ばれたが、これは義時の法号に由来するとの説もある。だが義時の業績をすぐに思い浮かべられるのは、かなりの歴史マニアだけのように思える。

一般的に知られていない人物や時代に入っていくには小説が最適であるため、義時を知るために必須の歴史小説を紹介していく。

※本稿は、雑誌『歴史街道』2020年5月号の内容を、一部抜粋・編集したものです。

 

北条義時が生きた争乱の時代

まずは、義時の登場は少ないが、義時が生きた時代が概観できる作品である。

吉川英治 『新・平家物語』(全16巻、講談社・吉川英治歴史時代文庫)は、平清盛の誕生から源頼朝の死に至る源平騒乱の歴史を、史実と虚構を混交しながら追った壮大な物語である。

後白河天皇と崇徳上皇が争った「保元の乱」の時、清盛と源義朝は、天皇に味方し勝利に導く。だが論功行賞に不満だった義朝は、「平治の乱」を起こすも清盛に敗れ、逃走先で殺されてしまう。

義朝の子の頼朝も処刑されるはずだったが、清盛の母・池禅尼が助命を望んだことで伊豆へ配流された。頼朝は、伊豆の有力豪族・北条時政の娘・政子と結婚、義弟の義時ら北条家と結び付くことで平家打倒、鎌倉幕府の樹立を成し遂げた。

源家と北条家が繫がる切っ掛けや、源家の発展に北条家がどれほど大きな役割を果たしたのかが実感できる大長編だ。

SF的なアイディアが導入されているが、浅倉卓弥 『君の名残を』(〈上・下〉宝島社文庫)は、より義時の動きをクローズアップしながら、源平騒乱の時代を描いている。

同じ高校の剣道部に所属する白石友恵と原口武蔵、知人の北村志郎は、落雷によって平安末期にタイムスリップした。森の中で目覚めた友恵は、駒王丸(後の木曾義仲)に助けられ、剣が苦手な駒王丸の手ほどきを始める。

駒王丸の側近となった友恵は、「巴」と呼ばれるようになる。武蔵は、身寄りのない子供たちの世話をしている僧と、家族のように暮らしていた。だが寺を襲った賊に僧と子供たちを皆殺しにされた武蔵は、憎悪と狂気に陥っていたところを源義経に救われ、「弁慶」の名をもらう。

実は平安時代に生まれ現代にタイムスリップしていた志郎は、元の義時に戻り、歴史の知識を活かして頼朝を支える。

タイムスリップ後はほぼ完全な歴史小説になり、時代の流れが現代人の視点で語られていくので、鎌倉幕府成立前後の歴史に詳しくない読者も、すんなりと作品世界に入っていけるはずだ。

愛する人を救うため源平騒乱の結果を変えたいと思いながら、運命には抗えない三人が、それでも諦めず困難に立ち向かう展開は、自分たちが生きている時代とは何か、生きる意味とは何かを問い掛けるとともに、せつない青春小説としても秀逸である。

同じく浅倉卓弥『黄蝶舞う』(PHP文芸文庫)は、頼朝と政子の娘で木曾義仲の子・義高の許婚だった大姫の悲劇、頼朝の不可解な死、二代将軍頼家の謀殺、三代将軍実朝の暗殺など、北条家が幕府の権力を簒奪するプロセスを、幻想小説の手法で描いた連作集で、美しくも残酷な世界観は圧巻だ。

伊東潤 『修羅の都』(文藝春秋)は、平家を滅ぼした頼朝が妻の政子とともに、武家政権という、まったく新しい政治システムを作り上げるまでの、文字通り血みどろの政治闘争を描いている。

平家は壇ノ浦で滅びたが、頼朝が権力を掌握するためには、武力はないが政治的な駆け引きが得意な後白河院(朝廷)、軍事の天才でカリスマ性がある弟の義経、莫大な富と権力で奥州一帯を支配する藤原氏という、三つの障害があった。

これを取り除くため、頼朝と政子が凄まじい謀略戦を繰り広げるのだが、その生々しさは、実際にこのくらいドライで冷酷にならなければ、改革など断行できないと思わせるものがある。

義時は、頼朝の家人として登場するが、頼朝から政治手法などを学び、鎌倉幕府の重鎮に上り詰める。後鳥羽上皇が鎌倉幕府打倒の兵を挙げた承久の乱に勝利した義時は、朝廷を倒した唯一の武将とされる。

伊東は、武家政権を守るためなら朝廷軍を平然と討伐するメンタリティを、義時は頼朝から受け継いだとするが、この解釈には説得力がある。

 

権謀術数が 渦巻く中で…

続いては、義時を主人公にしたり、義時がかかわった事件を取り上げたりした作品である。

永井路子 『炎環』(文春文庫)は全四作からなる連作集。粛清を続ける頼朝の下で目立たず生きていた異母弟の全成が野望を抱いたことで、運命の変転に見舞われる「悪禅師」、頼朝の忠臣だった梶原景時が二代将軍頼家に追われるまでを描く「黒雪賦」、政子と妹の保子の暗闘を活写した「いもうと」と、続けて読むと、鎌倉幕府草創期の歴史が浮かび上がるようになっている。

この作品で永井は、生まれた子供を母親でなく乳母の一族が育てる「乳母制度」に着目。乳母に育てられた子供が、実家ではなく乳母の一族の利権を守るために動いたことが、相次ぐ将軍暗殺など鎌倉幕府の混乱の原因になったとした。

この説は、歴史学者からも高く評価されている。義時を主人公にした最終話「覇樹」は、多弁ではなく表に出る機会も少ない義時が、まさに舞台裏から、頼家の後見役となった有力御家人の比企家を滅ぼす。

そして、父の時政を出家させ、実朝暗殺事件を処理し、そして承久の乱に対処するなど権力を掌握するまでが描かれている。そのクールな策士ぶりに魅了されるのではないだろうか。

永井路子『北条政子』(文春文庫)は、『炎環』の時代を政子の視点で再構築した長編で、源平騒乱から北条家による政治体制確立までを舞台にした歴史小説の、古典的な名作といえる。

高橋直樹の短編集『鎌倉擾乱』(文春文庫)収録の「非命に斃る」は、頼家と後ろ盾になった比企一族の滅亡を題材にしている。

偉大な父・頼朝が急死し、将軍になる十分な教育を受けないまま後継の座に就いた頼家は、自分の権威を示すかのごとく、強引かつ独断で決裁するようになっていた。

娘の政子から子の頼家についての相談を受けた時政は、苦肉の策として有力御家人の合議で政治を動かす制度を作る。頼家を支えるかに見えた北条家が、謀略を使って比企一族と頼家を追い詰めていく終盤は、政治の残酷さを突き付けており、身震いするほど恐ろしい。

義時は脇役だが、権謀術数を駆使する様は強く印象に残る。

『鎌倉擾乱』には、鎌倉幕府八代執権の北条時宗、九代執権の北条貞時に執事として仕えた平頼綱を主人公にした「異形の寵児」、北条家の終焉を描く「北条高時の最期」が収録されており、義時以降の北条家の動向も知ることができる。

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