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ペルシアvs.ギリシャに始まり、現代に続く覇権争い…貿易戦争の世界史

2021年01月03日 公開
2021年08月02日 更新

宇山卓栄(著述家)

 

ヴェネツィアvs.ジェノヴア――地政学的な劣勢を強みに変えて

12世紀以来、イタリアの諸都市は、レヴァント(東方イスラム圏)との貿易で大きな利益を上げていました。この貿易は、ルネサンス時代(14世紀から16世紀)の繁栄を生む経済的な基盤となりました。

レヴァント貿易で栄えたイタリアの二大港湾都市が、ヴェネツィアとジェノヴァです。イタリア半島の付け根の東側に位置するヴェネツィアはアルプス山脈を東に迂回し、グラーツを経由して、ウィーンに至るルートでヨーロッパ内陸部と接続していました。

半島の付け根の西側に位置するジェノヴァはアルプス山脈に遮られ、北上することができず、海路で西側に移動し、フランス南部沿岸やスペイン沿岸と接続していました。

ヴェネツィアとジェノヴァはレヴァント貿易の利権を巡り、衝突していました。両都市は1295年、ヴェネツィア・ジェノヴァ戦争を始めます。この戦争は1380年まで続き、ヴェネツィアが勝利し、地中海の交易権を握ります。

ヴェネツィアは、レヴァント貿易の物品を陸路でヨーロッパ中心部に売っていました。その利益は、ジェノヴァが海路でフランスやスペインの沿岸都市に売るよりも遥かに高かったのです。

ヨーロッパ中心部と接続していたヴェネツィアが、地政学的な優位性をジェノヴァよりも有していました。

しかし、ジェノヴァはその劣勢を逆に強みに変えていきます。ジェノヴァは新たにイベリア半島(スペイン)南部とアフリカ北西部沿岸に経済的拠点を設けます。そして、ポルトガルやスペインの王権と深く結び付いていきます。

ジェノヴァは、モロッコの港湾都市セウタなどに集まる黄金や物資の豊富さから、アフリカ大陸に大きな可能性を感じていました。アフリカ大陸を南に回り込み、インドへと到達することのできる新航路の情報などを、この頃、ジェノヴァは詳細に摑み始めていました。

ジェノヴァは特に、港湾都市リスボンの可能性に着目し、ポルトガルに積極的に資金を拠出し、インド航路を開拓させ、15世紀の大航海時代を幕開けさせます。

歴史家フェルナン・ブローデルは著書『地中海』で、「ジェノヴァは、何度も進路を変え、そのたびに必要な変貌を遂げた」と記しています。

ジェノヴァはヴェネツィアに敗北したことにより、新たな貿易のビジネスチャンスを摑み、大航海時代において、ポルトガルやスペインとともに世界を開拓し、覇権を握ります。

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