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渋沢栄一が今、選ばれる理由…格差が広がる「分断の時代」への処方箋



2021年02月20日 公開

江上剛(作家)

渋沢栄一

大河ドラマ「青天を衝け」で話題沸騰中の渋沢栄一。彼はなぜ、大河ドラマの主人公に選ばれたのか。ポスト・コロナの今、我々が「日本経済の父」から学ぶべきこととは…。

※本稿は、『歴史街道』2021年3月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

時代を象徴する一万円札の「顔」

渋沢栄一が、今、注目されている。2月14日から始まったNHK大河ドラマは、渋沢が主人公。さらに渋沢は、2024年から発行される一万円札の「顔」となることが決まっている。

一万円札の「顔」はどんな理由で選ばれるのだろうか。政治的な思惑などもあるかもしれないが、残念ながら私は選考基準を知らないので、勝手に推測しつつ、それぞれの時代を見ていこう。

初めて一万円札が登場したのは、昭和33年(1958)のことだ。「顔」には聖徳太子が選ばれた。

聖徳太子は、昭和5年(1930)に百円札に登場以来、お札の常連である。昭和5年といえば、浜口雄幸首相が東京駅でテロに遭う等、昭和恐慌の最中だ。社会的、経済的格差も現在の比ではないほど激しく、社会は分断されていた。

その結果、軍部独裁が始まり、日本が戦争にひた走ることになる嚆矢の年だと言ってもいいかもしれない。

そんな年に発行するのに向け、お札の「顔」に聖徳太子が選ばれたのは、政府が、太子の十七条憲法にある「和を以て貴しとなす」の精神で国民融和を図ろうとしたのではないか。お札を取り出す度に太子の尊顔を拝し、和の心を取り戻して欲しいと期待したのだろう。

さて聖徳太子の一万円は、昭和61年(1986)まで使用される。28年間も使用された。

聖徳太子の御利益は大きく、この間、日本は高度成長の波に乗り、オリンピック、万国博などを成功させ、世界の主要国の仲間入りを果たした。日本の成功は、アジア各国の経済成長のモデルになった。

しかし経済的成功を成し遂げた日本は、やや尊大になり、バブル景気へと突っ込んでいく。聖徳太子はお札の代名詞になり、国中に聖徳太子が溢れることになる。

昭和59年(1984)に、一万円札の「顔」は聖徳太子から福澤諭吉に交代する。聖徳太子からいきなり明治の文化人になったのである。

福澤と言えば、『学問のすゝめ』や慶應義塾大学の創設などで有名だ。この人選にはどんな意図が込められているのだろうか。

高度成長を成し遂げたので、次は文化立国を目指す考えだったのか。あるいは西洋事情の紹介者でもあったことから、グローバル化の時代に相応しいと考えたのか。

福澤の一万円札の時代は、残念ながら日本の低迷期と重なってしまった。バブル崩壊後の長く続く低成長に加え、阪神・淡路大震災、東日本大震災、福島原発事故など、国民生活を直撃する大災害も数多く発生した。

文化国家を目指すためには、経済的にも豊かでないとどうにもならない。しかし低成長のお陰で、日本は世界の成長から取り残されてしまっているとの議論が活発化した。

このままではいけない。文化国家より経済国家だと考えた政府は、一万円札の「顔」を福澤に代え、「日本資本主義の父」と尊称され、生涯に500社以上の会社を立ち上げたという渋沢栄一にご登場願うことにしたのではないだろうか。

はたして渋沢一万円札は、私たちに再び、経済成長の夢を見せてくれるだろうか。

こんなことを言うと身も蓋もないが、私は、高度経済成長の時と同じような夢は見せてくれないと思っている。政府が、渋沢一万円札に、かつてのようなGDP神話を託しているとすれば、期待は裏切られるだろう。

そもそも渋沢が理想としたのは、単純なGDP増加だけで測られる経済成長ではないからである。

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