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幕末京都に迫る「天狗党」…一橋慶喜の“その後”に与えた影響とは

2021年06月08日 公開

安藤優一郎(歴史家)

 

天狗党挙兵と禁門の変

同じ元治元年3月27日、慶喜の実家である水戸藩では、天狗党と呼ばれた尊攘派の水戸藩士藤田小四郎(藤田東湖の四男)たちが筑波山で挙兵する。その目的は幕府に攘夷実行を促すことにあった。

天狗党は攘夷祈願のため徳川家の聖地日光東照宮に向かい、日光から天下に向けて攘夷実行を呼びかけようとするが、その背後には政変で失脚して失地回復を目指す長州藩がいた。軍資金も出ていたという。

幕府は北関東の諸藩に鎮圧を命じるが、水戸藩内で天狗党に反発する藩士が鎮圧軍に加わったため、水戸藩は内戦状態となる。戦場は水戸藩領以外の常陸国や下野国にも広がり、北関東は半年以上にわたって騒然とした状況に陥った。

この頃、一橋家の戦力になりそうな浪士たちを集めるため、関東の同家所領を廻っている者がいた。慶喜の家臣に取り立てられたばかりの、渋沢栄一と従兄弟の渋沢成一郎である。6月下旬より栄一たちは巡回を開始するが、思うように人は集まらなかった。天狗党に参加してしまう者が多かったからである。

この頃、慶喜のいた京都も風雲急を告げていた。6月5日には、新選組による尊攘派志士たちへの襲撃事件(池田屋事件)が起きる。京都から追放された長州藩は、藩士を多数京都に潜入させて公家や諸藩の屋敷に出入りさせ、復権工作を展開していた。

長州藩を支持する尊攘派の志士もこれに加わったが、新選組がその会合場所を襲撃して殺傷に及んだのだ。池田屋事件は、約一ケ月半後に起きる禁門の変の導火線となった。

慶喜の側近として知られ、渋沢を慶喜の家臣に取り立ててくれた一橋家家老並の平岡円四郎も、6月16日夜に京都で暗殺される。

慶喜は開国派で攘夷を実行する意思はなかったが、そうとは夢にも思わない尊攘派の水戸藩士たちは、慶喜が破約攘夷を実行しようとしないのは、開国論を唱える平岡が籠絡したからだと敵視していた。

彼らは平岡を奸物と思い込み、暗殺する。そして、慶喜が破約攘夷を実行するのを期待した。

7月19日には、ついに長州藩が京都市中に雪崩れ込んできた(禁門の変)。天皇のいる御所へと迫ったが、慶喜は禁裏御守衛総督として、これを撃退する。慶喜の名は天下に轟くが、その立場を危うくする動きがすぐそこにまで迫っていた。

 

慶喜に向けられた批判

京都で戦争が起きた頃も、天狗党は幕府が差し向けた追討軍との戦いを続けていたが、次第に追い詰められていた。常陸国の大子まで敗走した天狗党は、慶喜を頼って京都を目指すことを決める。10月26日のことであった。

慶喜を頼ろうとしたのは、攘夷実行の決意のもと挙兵した自分たちの志を分かってくれるはず、との思いからだった。本心はどうあれ、慶喜は破約攘夷を表看板としていた。

西上を開始した天狗党は京都を目指したが、頼みの慶喜はその討伐を朝廷に願い出る。天狗党に通謀していると幕府から疑われるのを避けるためだったが、渋沢栄一もこれに従軍した。

12月3日、慶喜は京都を出陣して近江国へ向かったが、海津まで進んだところで、天狗党823人が加賀藩に降伏したとの報せが入った。慶喜は京都に戻ることになったが、降伏した天狗党には悲惨な末路が待っていた。

加賀藩から幕府に引き渡された天狗党の面々は、過酷な処遇を受ける。敦賀の鰊蔵に監禁されたが、劣悪な環境だったため病死する者が続出する。そして、352人が斬首に処せられた。

保身のため天狗党を見殺しにした慶喜への批判が高まるのは、避けられなかった。斉昭亡き後、尊攘派志士の期待を集めていた慶喜への失望感も広まる。

天狗党に対する幕府の過酷な処遇と大量処刑は、諸藩からの批判も招く。薩摩藩士大久保利通などは、幕府の滅亡は近いと批判した。天狗党の乱の結末は慶喜の立場を悪くしただけでなく、幕府から人心が離れる大きな要因にもなったのである。

 

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