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東洋一の規模を誇った大刀洗飛行場跡…少年飛行兵の一冊のノートが語りかけるもの

2021年08月01日 公開

安部龍太郎(作家)

 

戦争の修羅場をくぐり抜けた4人への取材

技能者養成所
技能者養成所の基本作業実習風景(写真提供:筑前町立大刀洗平和記念館)

それから一年半後の平成28年(2016)3月、私は再び大刀洗平和記念館をたずねた。飛行場を舞台にした小説を書こうと決意し、踏み込んだ取材がしたいと思ったからである。

すると戦時中の状況を知っている方々が、講演などの啓蒙活動をしておられることが分かり、平和記念館の担当者のご尽力によって、次の4人の方から話を聞くことができた。

【松隈嵩さん】

久留米工専出身で、私の27年上の先輩である。一年生の時に学徒動員で九州飛行機に勤務し、震電の製作にも末端の技術者として関わられた。ベルヌイの法則のノートを残した少年飛行兵の佐藤亨さんとは、中学時代の同級生である。

昭和20年4月18日、回天制空隊の山本三男三郎少尉が、愛機の屠龍でB29に体当たりして撃墜した。この時、小郡市の墜落現場を撮影した歴史的な一枚を撮った方である。

【信国常実さん】

大刀洗飛行場に付属する技能者養成所でエンジンの整備の訓練を受け、昭和17年(1942)5月にフィリピンのクラーク飛行場(現クラーク国際空港)に配属された。

現地がアメリカ軍の猛攻にさらされるようになると、密林での過酷な逃避行の末に九死に一生を得て、昭和20年12月にアメリカの輸送船で帰国した。

【河野孝弘さん】

技能者養成所で整備工の訓練を受け、大刀洗飛行場で任務に当たっている最中、昭和20年3月27日の大空襲を経験し、横穴壕に避難してかろうじて助かった。

その後、大刀洗飛行場の4キロほど北にある北飛行場で勤務するようになり、特殊爆弾を搭載したさくら弾機が炎上する事件に遭遇。消火活動に当たった経験もある。

【末吉初男さん】

大刀洗陸軍飛行学校の甘木生徒隊、少年飛行兵15期生の入校式
大刀洗陸軍飛行学校の甘木生徒隊、少年飛行兵第15期生の入校式(写真提供:筑前町立大刀洗平和記念館)

昭和18年(1943)、16歳で少年飛行兵第15期に合格。大刀洗陸軍飛行学校甘木生徒隊に入隊した。翌年、台湾の屛東飛行場に配属される。

昭和20年4月28日に沖縄に向かって特攻出撃したものの、航法士(航路指示が任務)が同乗していた隊長機が故障したために、150キロ爆弾を海に捨てて石垣島の飛行場に不時着した。

 

97式戦闘機
博多湾から引き揚げられた九七式戦闘機(写真提供:筑前町立大刀洗平和記念館)

──いずれも戦争の修羅場をくぐり抜けた方々で、訥々と語られる体験談には万鈞の重みがあった。これで小説を書く態勢はととのった。タイトルは『不死鳥の翼』にすると決めたものの、他の仕事に追われて多忙をきわめ、なかなか執筆に取りかかることができなかった。

そうしているうちに時間だけが過ぎ、取材させていただいた信国さんの訃報が届いた。これでは申し訳ないと思い、取材にもとづいたドキュメンタリーを、地元の西日本新聞に『四人の証言─大刀洗飛行場物語』と題して連載した。

このほど連載した作品を『特攻隊員と大刀洗飛行場 四人の証言』と改題し、PHP新書として上梓することになった。今年の3月、取材に協力していただいたお礼と上梓の報告をかねて、大刀洗平和記念館をたずねた。

展示室の入口に置かれた九気筒の星型エンジンは、信国さんたちがクラーク飛行場で整備したのと同型のものだ。松隈さんが撮った、墜落して炎上するB29の写真も、大きく引き伸ばして壁一面に展示してある。

また、2階にかかげられたB29の撃墜マーク8個をつけた木村定光少尉の愛機「屠龍丙型」の写真は、日本のパイロットたちが果敢にB29に挑んだことを証すものだ。

博多湾に不時着したまま沈んでいた機体を引き揚げた九七式戦闘機は、末吉さんが特攻出撃した飛行機と同じ型である。そうしたことを思いながら見ていると、展示物のひとつひとつが今までとは違った重い意味を持って迫ってきた。

4人の方々から話を聞き、心に寄り添ってドキュメンタリーを書いているうちに、いつの間にか彼らの体験を共に生きていたのである。

 

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