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「俺たちがいたことをみんなに…」若くして散った回天制空隊パイロットからの言葉

2021年08月06日 公開

安部龍太郎(作家)

左が佐藤亨伍長(写真提供:大刀洗平和記念館)
左が佐藤亨伍長(写真提供:筑前町立大刀洗平和記念館)

昭和20年、重要拠点ゆえにB29に爆撃され、壊滅的被害を受けた福岡県大刀洗飛行場――国民学校を卒業したばかりの15歳の少年たちは、この地で即製され、ある者は整備兵として、そしてある者は特攻兵として戦場へと送り出された。直木賞作家・安部龍太郎氏が大刀洗平和記念館を訪れた際に小説を書くきっかけになったと語る「ある男の手記」について紹介する。

※本稿は、安部龍太郎著「特攻隊員と大刀洗飛行場」(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。

 

ある特攻隊員の手記が語りかけるもの

大刀洗平和記念館の資料室には佐藤亨氏が残した手記があった。『特攻残記』というタイトルで、「多情多恨なり『九七戦』」という副題がついている。平成16年(2004)に知覧特攻平和会館から発行されたものである。私は学習室の席を借り、むさぼるように手記を読んだ。手記の概略は次の通りである。

《佐藤亨は大正15年5月27日、佐賀県の目達原飛行場から10キロ程離れた田舎町で生まれた。昭和8年(1933)4月に小学校、昭和14年4月に旧制中学校に入学。三年生になった年の12月8日に、日本は真珠湾攻撃を決行して米英との戦争に突入した。

この攻撃に際し、中学の先輩である広尾彰大尉が特殊潜航艇での攻撃で散華し、九軍神の一人としてたたえられた。その影響もあって、佐藤は少年飛行兵に応募し、昭和18年3月27日に東京陸軍航空学校に入学した。

東京に出発する時には、出征兵士を見送るのと同じように日章旗や幟が立てられ、万歳三唱して祝ってもらったという。3月29日に約1,500名の合格者の発表があり、操縦適性者は大刀洗陸軍飛行学校へ、整備は岐阜陸軍航空整備学校へ、通信は水戸陸軍航空通信学校への移動を命じられた。

4月には佐藤ら500名の大刀洗での入校式があった。以前は1年間の教育期間があったが、この年の少年飛行兵第14期生から、操縦士の不足を補うために期間を繰り上げ、2カ年の上級教育のみとする急速養成コースになった。

4月から8月まで一般的な教育や軍事教練がおこなわれ、8月11日から10日間は夏期休暇で帰省が許された。その折、軍服姿で故郷に錦を飾り、母校の小学校で啓蒙のための講演をするように命じられた。

帰校後は専門教育となり、気象学、機関工学、エンジンの分解組立を学ぶようになった。「飛行機正手簿」の交付を受け、ベルヌイの定理などを学んだのはこの頃である。

入学から一年後の昭和19年3月には、朝鮮半島の群山飛行場(現・韓国全羅北道群山市)で飛行訓練を受けるようになった。基本操縦教育課程を修了して卒業したのは7月23日だから、入学からわずか1年4か月という短さである。

その間に正手簿に記された内容を理解したとすれば、能力と努力には驚嘆するばかりである。

〈その訓練の厳しさは、真に筆舌に尽せぬ苦しみであった。その生活によくぞ耐えたものであったと思う〉本人はそう記しているが、祖国を守るという使命感と、操縦を誤ったら生きてはいられないという緊張が、極限状態の中で能力を開花させたのかもしれない。

そして7月31日、戦闘機操縦要員として、旧満州の公主嶺飛行隊(中国吉林省公主嶺市)に所属するように命じられた。翌年1月、陸軍中央部は戦局の悪化を打開するために特攻部隊の編成を命じた。佐藤は第105振武隊第4降魔隊の一員となり、4月28日に知覧から出撃することになったのだった》

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