ホーム > ヴァーチャル産業交流展2020特設サイト > ウィズコロナ時代、ヴァーチャル×リアルが新たなイノベーションを生む
<PR>提供:産業交流展2020実行委員会
2021年1月10日 公開
落合陽一 Yoichi Ochiai メディアアーティスト
1987年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。筑波大学デジタルネイチャー開発研究センター センター長、准教授・JST CREST xDiversityプロジェクト研究代表。『デジタルネイチャー』(PLANETS)、『2030年の世界地図帳』(SBクリエイティブ)など著書多数。「物化する計算機自然と対峙し,質量と映像の間にある憧憬や情念を反芻する」をステートメントに、研究や芸術活動の枠を自由に越境し、探求と表現を継続している。オンラインサロン「落合陽一塾」主宰。
2020年の産業交流展は、初の「ヴァーチャル開催」となりました。ヴァーチャルないしデジタルは、ウィズコロナの社会に欠かせないものとなっています。その発展はますます、ビジネスの可能性を広げることでしょう。
こうして策を講じつつこの1年を過ごしてきた私たちですが、やはり、社会からは多くのものが失われました。
例えば、祝祭性。身近なところでは、学校行事や冠婚葬祭の中止。大きなところではオリンピック・パラリンピックの順延がありました。
そして、「コンヴィヴィアリティ」=「自立共生性」。1973年、オーストリアの哲学者・イリイチは『コンヴィヴィアリティのための道具』という著書において、自立共生性が一定水準以下になった社会では生産性も打撃を受けると語りました。今、私たちは、その現実を生きています。
ちなみに同年に出たベストセラーが、シューマッハーの『スモール イズ ビューティフル』。人間中心の経済学と、持続可能性の意義が説かれています。つまり、今で言うSDGs。やはり、50年後の今日と符合しますね。
これらは、我々がたどるべき道の指針でもあります。どのようなイノベーションが起こり得るのか、そこにどのような考え方が必要か、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
活路を考えるうえで私が着目しているのは、今語った「共生」と、「民藝」そして「華厳」という概念です。
柳宗悦は、民藝の美を「無心の美」「自然の美」「健康の美」と語りました。現在注目されている価値観との共通性を感じますね。柳が民藝の特性として挙げている地方性や伝統性もまた然りです。ローカルに、それぞれの場所で創意工夫されつつ作られるものが、新たな価値提供の基盤になると思われます。
では、華厳とは何か。仏教学者の鎌田茂雄氏は、華厳を「有限なるもの、小なるものに無限を見出す」概念だと説いています。日本文化は古来、そうした霊性、サステナブルな精神性を持っています。これらの視点で経済とコロナとの関係性を捉え直したとき、コアになるアイデアが生まれ得るのではないか、と思うのです。
「身体性」も重要な鍵となります。すでにこの1年、身体間の距離はビジネスに多くの変化をもたらしました。オンライン会議、デリバリーやテイクアウトの普及など。
中には、一過性だったものもあります。一時期流行ったリモート飲み会はもう下火ではないでしょうか。欠けていたのは、やはり身体性です。空間を共有し、身体を使って大声で話すという営みの価値は、画面越しでは得づらいものです。
イノベーションが起こるのはおそらく2021年後半。ワクチン普及のタイミングを考えると、おそらく21年の第4四半期目頃から、距離を保つ社会の中で醸成された、新しいサービスが生まれると予測しています。
今の社会は、身体間に仕切りが不可欠な「グリッド型」。時間空間が格子型に区切られ、個々の区切りの中に多人数は入れません。
対して、デジタルを使えば多人数が集えます。つまり、アナログのグリッドはオープンでまばら。しかしデジタルは時間空間を「密」に共有可能。この対照的な二つのグリッドをどう掛け合わせるかが、新たなビジネスを創出するうえでの課題となるでしょう。
その視点から、去る10月、日本フィルハーモニー交響楽団の皆さんと「双生する音楽会」というイベントを開きました。演奏者の動きにデジタルアートの映像が呼応し、聴覚と視覚が協奏する作品を、リアルとオンラインで提供するという内容です。制作過程をつぶさに発信・共有する試みもなされました。こうして制作者の思考過程をつまびらかにすることで、オンラインに伴う距離感を縮めようという働きかけです。このような試行錯誤が、オンラインに乗せづらいビジネスにも何らかのヒントをもたらすことができれば、と願っています。
今後、イノベーティブな試みは数々出てくるでしょう。しかしおそらく、最初にアイデアを述べた人は否定的に反応されます。私も、ウィズコロナ初期に「これから社会のあらゆる場所が、間仕切りのあるラーメン店『一蘭』のようになるかもしれません」と語ったら、多くの方から「さすがにそれはないでしょう」と突っ込まれたものです。しかしそれは日常となり、皆が受け容れていますね。
実際、今の世はある意味「やさしいディストピア」。行く先々で体温を測られ、監視され、感染経路把握のために個人の位置情報が使われる。公衆衛生保持が、個人情報の秘匿に優先される。そしてその社会を、皆がおおむね是としている。
社会のありように慣れる人の価値観は重要な問題をはらんでいます。戦前の日本人にも同じ現象が見られました。
この先のイノベーションに、人々はどう相対するでしょうか。最初はむしろ戸惑うかもしれません。それをいかに「雪解け」させるかも、イノベーションの担い手に託された課題と言えるでしょう。
そのとき、企業は、そして働く人たちはどう動くべきなのか――この続きは、「ヴァーチャル産業交流展2020」の特別講演にてお話ししたいと思います。