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炎上する企業が続出!その理由とは?

2015年04月10日 公開
2023年02月01日 更新

野村修也(中央大学法科大学院教授/森・濱田松本法律事務所客員弁護士)

 

企業は炎上にどう対処すればいいのか

近年、企業の失態に対し過剰に反応する「炎上」が増えている。
企業はこうした炎上にどう対処すればいいのだろうか。
中央大学法科大学院教授であり、炎上の対処法に詳しい、野村修也教授にお話を伺った。

野村修也(のむら・しゅうや)
1962年、北海道生まれ。中央大学大学院法学研究科を経て、98年中央大学法学部教授に就任。同年金融監督庁検査部(現金融庁検査局)参事となり、コンプライアンスに関する金融検査マニュアル策定にかかわる。
現在、中央大学法科大学院教授、ビジネスコンプライアンス検定委員。

 

ある日突然「悪評」が拡散する理由とは?

 SNSの発達とともに、口コミ情報拡散のスピードは格段に上がった。だが、共有される情報は良いものばかりではない。企業の悪い情報が拡散し、批判が殺到する、俗に言う「炎上」という状態だ。企業のミスは以前からあったはずだが、それがなぜ近年「炎上」にまで発展してしまうのか。「井戸端会議や居酒屋での会話といった、その場限りのうわさ話や経験談。これが一瞬にして世界中に広まるのがSNSです。多くの人は、自分の使っている道具の威力を把握していません。だから悪意もなく企業のネガティブ情報を掲載します。株価を操作する、評判をおとしめる……など目的意識はありません。ただ企業としては、いち消費者の小さな声が、企業を揺るがす可能性があることを頭に入れるべきでしょう」

 身内に軽口をきくように発せられる何気ないSNSの投稿。だが、それが炎上をもたらすこともあれば、ならないこともある。その違いはなにか。

 「その企業への不信感の有無です。日頃から疑問の目を向けているなら、事が起きた際、『やっぱり思っていたとおり』と感じ、情報が拡散していく。問題発生時のリスクコミュニケーションを誤った場合、炎上はさらに加速します」

 逆に、普段から消費者に良い印象を持ってもらえていれば、事件が起きても「これはレアケースだ」と判断され、炎上には至らない。そのような信頼関係をどう作ればいいのか。

 「社会とどう向き合うかを真剣に考えることです。たとえば、ユーザーに対して充分な情報を開示しているか。安心・安全に対して、自分たちはどう考え、どう行動しているかといった情報を、CMやWebなどを通して常日頃から発信すべき。ただ、忘れがちなのは『従業員』。社員一人ひとりの言動やふるまいからも、企業の姿勢は外部に伝わっていきます。ユーザーに直に接する業務ならなおさらです」

 自分たちの企業は、どんな理念を持ち、どこを目指すのか。従業員全員が企業の方針をしっかり理解していれば、彼らこそ強い発信源となる。

 「最近、商品の宣伝をせずに、企業の方針や理念を表現するCMが多いと思いませんか。たとえば東京海上日動では、『冒険や挑戦を支える』という保険の本質を伝え、挑戦する人を応援する企業であると宣言しています。これは外部に対してだけでなく、実は自社の社員に、企業の社会的意義を伝えるためでもあるのです」

 理念の共有ができていないと、情報公開はもろ刃の剣になる可能性もある。

 「『敵は内側にいる』可能性があるからです。従業員の不満が多い会社では、社内の情報が故意に漏洩されるようなことも。企業としての姿勢を、内と外両方に伝えるべきでしょう」

 

1年前の不祥事を今さら発表すべきか?

 だが、どんなに気をつけていても、ミスの起こらない企業など存在しない。では、こうした「有事」に際し、炎上を避けるためにどのような行動をすべきか。それが「リスクコミュニケーション」だ。

 「問題が起きた際、消費者はもちろん行政など関係するすべての人とリスク情報を共有し、相互の理解を深める、ということです。情報の隠いん蔽ぺいは、もっとも回避すべき手段。ここを見誤ったために莫大な損害を被ったのが、かつてのダスキンです」

 事件は2000年に起きた。中国で製造された食品に、日本で未認可の添加物が使われていた。そのことに気づいた取引業者に対して、ダスキンの担当役員は口止め料を払い隠蔽。すでに製造した添加物入りの商品はすべて売り切った。そして、その後は何事もなかったかのように、問題の添加物を取り除いて製造が続けられた。この隠蔽工作は次第に噂となったため、翌年には社長の指示で内部調査が行なわれたが、社長は、すでに1年近く経っていて、商品は残っていないという理由で、対外公表しないことを決めた。ところが、2002年になって従業員の内部告発によって明るみとなり、消費者による不買運動の結果、フランチャイズ加盟店に巨額の保証金を支払うことになった。「かつては問題があったが、すでに1年も前に解決済みの案件。これを今さら公表すべきか、確かに悩むかもしれません。

 ただ、消費者目線になって考えてみましょう。仮に何かの拍子に事件が明るみに出た場合、消費者は『過去のこと』と納得してくれるでしょうか。『今も問題が続いているに違いない』、あるいは『他にも隠蔽している情報があるのではないか』と勘繰る人も出てくることでしょう。自分たちの常識ではなく、世間の人がどう考えるかを見極める必要があります」

 このリスクコミュニケーションを徹底することで、むしろ信頼を勝ち取った企業もある。2005年の松下電器産業(現・パナソニック)のリコール問題だ。20年前に製造されたストーブが、使い方によっては死亡事故に繋がる可能性が発覚。ただちにすべてのCMをストーブの回収情報に充てるなど、迅速かつ徹底した対応が評価された。

 「着目すべきは“出来事”ではなく、出来事が“もたらす影響”。たとえ出来事そのものは些細なことでも、自社のブランドを失墜させる可能性がある。炎上回避とは、すなわちブランド管理とも言えるでしょう」

 

現場で「リスクウェイトづけ」をやっておこう

 「炎上」とは、企業のコンプライアンスに関わる問題だということで、法務部が対応すべきだと思っている人も多い。だが、「社員全員が当事者意識を持つべき」と野村氏は指摘する。

リスク対策は自分の問題として捉えよう

 「コンプライアンスという語はよく『法令順守』と説明されますが、実はこの言葉自体は、法律とは関係ありません。コンプライアンスとは、“COMPLY=従う”の名詞形です。つまり、企業自らが定めたルールに従うこと。また、炎上対策はブランド管理の一環といっても、企業の顔となるのはやはり社員1人ひとり。全社員の行動がブランドイメージを作るのです」

 そこでお勧めなのが、有事の際のルールを事前に現場で用意しておくことだ。

 「やっていただきたいのが『リスクウェイトづけ』です。まず、自分たちの職場で起こりうるリスクをシミュレートし、それぞれに〝被害の大きさ×頻度〟を掛け合わせ、マップに配置します。そして、起こりうる頻度が高く、被害も大きいものから対策を考えましょう。

 またリスク対策は、一度作れば終わりではなく、継続的に見直すこと。PDCAサイクルで常に更新させるものです」

 お仕着せの研修では、リスクは封じ込められない。まずは自分の部門から炎上対策を始めてみてはどうだろうか。

《『THE21』2015年5月号より》

 

もしも根拠のないデマを流されたら?
ネットのウワサ話への対処法

 「A 社の牛肉製品には、別の動物の肉が使われている」。突然、こんな根拠のないデマが飛び交うことがある。それが単なるうわさ話でも、検索ツールの発達によって思わぬ拡大を見せることも。たとえば、検索ツールに「A 社」と打ち込むと、すかさず「A 社 ニセ牛肉」などと表示されるからだ。これはサジェスト機能・予測変換機能と呼ばれ、検索数が多い単語が自動的に表示される仕組み。この検索ツールに表示されるデマを消すことはできないのだろうか。

 「残念ながら、検索サービス会社に削除を依頼しても、実行してもらえる可能性は低いです。表示される単語がウソだとしても、その言葉で数多く検索されていることは真実ですから。なぜ個別の削除依頼に応じないかというと、検索機能の信憑性がなくなってしまうから。今、多くの企業が検索の上位に表示されることを望んでいます。検索結果を人の手で操作できるとなると、検索結果すべてが疑わしくなるからです。

 間違った情報が表示され続けるようなら、企業としてそのウワサを打ち消す情報を発信していくことです。ただ、ウワサを裏返せば、その企業への不信感の現れです。日頃から信頼される努力をすべきです」(野村氏)

 

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