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「うつ病」と「やる気」の関係~知っているようで知らない!

2015年04月10日 公開

加藤忠史(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)

 

 

「ひょっとして、自分は病気では」と疑う前に

どんなに仕事を頑張ろうとしても「どうしてもやる気が出てこない」場合は、「自分はうつ病だから、やる気が出ないのでは?」と疑う人もいるかもしれない。
確かに、うつ病患者が増えているのは事実だが、「やる気が出ない」と「うつ病」の間には大きな違いがある。一般的には誤解が多い、その違いを知っておこう。
<取材・構成 塚田有香/写真撮影:長谷川博一>

 

「うつっぽい」のと「うつ病」は全然違う

 「うつ」とは何かを説明するのは、実は専門家でも非常に難しい。そもそも、一般的に使われている「うつ病」という名称が誤解を招きやすいのです。現在、「うつ病」と診断されるものには、かなり幅広い症状が含まれるからです。脳のう梗こう塞そくなど脳の病気によって引き起こされる「うつ病」もあれば、認知症の前段階としての「うつ病」もあります。本当は双極性障害(躁そううつ病)なのに、受診時に「うつ状態」で、以前の躁状態に気づかれていないために「うつ病」と診断されてしまうケースもあります。ですから、「病」と言うよりも「症候群」と表現したほうが正確でしょう。本当は「うつ病」ではなく「うつ症」と呼ぶのが適切なのかもしれません。

 さらに言えば、「うつ」という言葉自体、専門家はもう使うべきではないという考えもあります。私たち精神科医は「抑よくうつ」という言葉を使います。これは身体的な症状を伴ううつ状態を意味する専門用語で、一般の方が「何だかうつっぽいね」などと日常的に使う「うつ」という言葉と明確に区別しています。

 みなさんも、「なんだかやる気が出ないなあ」と感じることはよくあるでしょう。人間のモチベーションは、「仕事がつまらない」「給料が上がらない」など、あらゆる理由で簡単に失われます。しかし、それは誰にでも起こり得ることで、「抑うつ」とは異なります。「抑うつ」とは、自己回復力を失った状態。面白い仕事を与えられたり、給料が上がったり、といった環境の変化があればやる気が出るのなら、当てはまらないのです。

 精神科医がうつ病の診断をするときは、米国精神医学会が発行する精神疾患の診断基準『DSM』を使います。その際、少なくともどちらか一方が含まれなくてはならないとされる条件が2つあります。「気分が沈む(抑うつ気分)」と「物事が楽しめない(興味・喜びの喪失)」です。これは「気分が凹へこんだ」「仕事が楽しくない」といった程度の生やさしいものではありません。

 「抑うつ気分」とは、今まで感じたこともないような、なんとも言えない嫌な気分が襲ってくることです。失恋して悲しいとか、親しい人を亡くしてつらいといった状態とも違います。ひどくなるとあらゆる感情が失われてしまいます。子煩悩だった人が、わが子の顔を見ても何も心が動かなくなってしまうほどです。

 「興味・喜びの喪失」というのは、今まで大好きだったものに対してさえ、何も感じなくなってしまう状態です。サッカーが大好きで日本代表の試合を欠かさず観てきた人が、ワールドカップで日本が快進撃を続けていても観る気もしないという状態に陥ってしまうのです。「会社は面白くないけれど、友達と遊ぶのは楽しい」というのは該当しません。最近はこうした状態をメディアが「新型うつ」と呼んでいますが、精神医学の世界では認められていない名称や概念です。

 この「抑うつ気分」「興味・喜びの喪失」のいずれかの状態が一日中続き、しかもそれが2週間以上にわたって毎日続いたときに、初めて「うつ病」である可能性が出てきます。これだけでも相当重い症状であることが想像できるでしょう。

 これでもまだ「うつ病」と確定できるわけではなく、他にも「食欲がない」「眠れない」といった身体症状、「罪の意識を感じる」「死にたくなる」といった精神症状のチェック項目もありますし、脳の病気やホルモンの病気などの身体的疾患がないか、双極性障害によるものではないか、といった診断も必要です。

 

日常生活に支障がなければ「うつ病」の心配はない

 そして何より重要なポイントは、「著しい苦痛、社会的、職業的な機能障害を引き起こしていること」。つまり、日常生活や社会生活に支障をきたすほど本人が困っていることです。

 最近はインターネット上に「このリストに当てはまる人はうつ病の可能性が!」といった正確さに欠ける記事が氾濫しているので、それを読んで「自分もうつ病では?」と心配する人が増えています。

 確かにひと昔前は精神科医の側も「変だなと思ったら早めに病院へ行きましょう」と勧めていましたが、現在は「今のところ仕事や生活で困っていなければ、『念のために』で受診する必要はありません」とお伝えしています。

 実際のところ、受診すれば、精神科医は「あなたは健康です!」とは言いにくいので、なんらかの診断をして、薬も処方することが多いでしょう。薬には副作用もありますから、必要がないのに飲むのは良いことではありません。

 内科などの病気なら検査によって「健康です」という診断もできるのですが、「うつ病」については面接しか診断法がありません。血液や髄液の検査、MRIを使った検査などが研究されているものの、実用化されたものはありません。これからの研究が待たれている病気なのです。

 本当に「うつ病」になった人は、自分から「具合が悪い」と言わない場合もあります。どう見ても生活に支障をきたしているのに、本人は「大丈夫です」と言い張るケースもある。本人に困っている自覚がなくても、周囲の人たちが見て困っているようであれば、その場合は、家族や上司から病院へ行くのを勧めたほうが良いでしょう。

 医師の診断を受けて「うつ病」と診断されたら、その重症度(軽症・中等症・重症)やタイプによって、適切な治療を行ないます。休職して治療に専念する場合もあれば、仕事を続けながら治療する場合もあります。半数の人は三カ月以内で治療を終了しますが、中には半年から1年、2年と治療が続くケースもあります。

 「うつ病」の中でも典型的なタイプが「メランコリー型」です。これは身体症状が非常に重く、動作や話し方がゆっくりになったり、食欲がなくなったり、朝早く目が覚めたりする特徴があります。ですから、中等症以上であれば、休職して抗うつ薬の投与を数カ月間続けるのが一般的です。

 メランコリー型の対極にあるのが「非定型」です。これは環境に反応しやすく、対人関係の問題をきっかけに抑うつ状態になることが多いタイプ。ですから、休職して治療しても、職場復帰後にまた対人関係の問題に直面したら、再度抑うつ状態に陥る可能性もあります。抑うつ状態になりやすい素因そのものを改善する治療が必要になるので、投薬と併行して、認知行動療法や対人関係療法などの心理療法を行なうことが多くなります。

 混同されやすいのですが、「うつ病」の治療を行なうのは「精神科」です。「心療内科」は「内科」と言うくらいですから、身体症状の治療が中心です。ただ、「精神科にかかるのには抵抗がある人も多い」という理由から、精神科の医師が「心療内科」の看板を掲げることがあるので、診療科名だけでは判断できません。逆に、精神科の専門的なトレーニングを受けていない医師が「精神科」の看板を出していることもあります。精神科の専門医の資格を持つ医師は日本精神神経学会のサイトで検索できるので、病院を選ぶ際の参考にしてください。

《『THE21』2015年3月号より》

 

加藤忠史

(かとう・ただふみ)

独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター
精神疾患動態研究チーム シニア・チームリーダー/主任研究員

1963年、東京都生まれ。東京大学医学部卒。滋賀医科大学精神医学講座助手、東京大学医学部精神神経科助手、同講師を経て現職。専門は双極性障害の神経生物学。医学博士。著書に『うつ病治療の基礎知識』(筑摩選書)などがある。

<掲載誌紹介>

THE21 2015年4月号 いつも評価が高い人VS.なぜか評価が低い人2015年4月号(いつも評価が高い人VS.なぜか評価が低い人)

<読みどころ>
組織に属する以上、誰もが気になるのが「評価」。 
人間が人間を評価する以上、そこには必ず「歪み」が生まれます。
ただ、それを放置することで、社員がモチベーションを下げてしまったり、間違った努力を繰り返してしまっては、会社・社員ともに不幸になります。
そこで今回、多くの識者への取材を通じ、「会社が評価する人」の条件を探り出してみました。
評価する側200人、評価される側200人への緊急アンケートを始め、一部上場著名企業から現役人事マン、コンサルタントなど様々な方から「今、評価される人材の条件」を徹底的に聞き出しています。
皆さんの「正しい努力」につながれば幸いです。

 


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