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マッキンゼー流「一瞬でつかむ」伝え方の極意

2015年06月02日 公開
2023年02月01日 更新

籠屋邦夫(ディシジョンマインド代表)

 

プレゼンは「祖母に伝わるレベル」がいい!

ディシジョンマインド代表の籠屋邦夫氏は、マッキンゼーを経て、ATカーニーでヴァイスプレジデントを務めた第一級の経営コンサルタント。マッキンゼー時代には大前研一氏にプレゼンや話し方の極意を叩き込まれ、それを実戦で磨いてきた。
多忙な経営者などを相手に、限られた時間で確実に伝えるための技術を教えていただいた。

 

上手に話そうと思わなくても良い

「短い時間で簡潔に伝え人の心を打つスピーチというと、スティーブ・ジョブズのプレゼンなどを思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、彼のような話し方を皆が目指すべきかというと、私はそうは思いません。普通の人がジョブズのような話し方を身につけるのは、『日本語しか話せない人が急にフランス語をペラペラに話すのを目指す』くらい難しいことです。
伝えることが苦手な人は、まず伝え方・話し方の基本を押さえることから始めましょう。基本が身につけば、自然と個性は出てくるもの。ジョブズ級の上手な話し手でも、実は基本を押さえていますし、私自身も経験上、その大切さを実感しています」

話し方・伝え方の基本とは、何か。籠屋氏は、「伝える」ことは、大きく、三つのパーツに分けられるという。「内容」「伝達」「議論」だ。

「まず、『内容』は、伝える前に、自分が伝えたい内容を整理すること。『伝達』とは、その整理した内容を相手に実際に伝えることです。そして、最後の『議論』とは、伝えたあとで、その内容をもとに相手と話し合ったり相手の疑問を解消したりして、その後の行動につなげることです。
仕事で相手に何かを伝える場合は、たいていその後に、『その話を踏まえて次にどう動くか』を議論します。その議論を思惑どおりに進めるためには、伝える段階でそのことを意識することが必要です。たとえばA案を採用してほしいなら、『A・B・Cの三案のうち、Aが最適』といった話をするべきです。
『伝える』というと、『伝達』ばかりを考えがちですが、その前の『内容』を準備することと、事後の『議論』を予想しておくことも同じくらい重要です。
こんなことは当然だと思うかもしれませんが、『内容』と『議論』の二つができていない人は、意外と少なくありません。内容を整理しないでダラダラ話す人や、長々と話すわりに『で、どうすべき』という意見が明確に伝わってこない人は、経営者や管理職クラスでもたくさんいます。
『内容』『伝達』『議論』の三つを意識することが、簡潔に伝えるための基本です」

 

まずは自分が理解できるよう、話の流れを整理

話す「内容」を整理するときには、何を意識すべきだろうか。籠屋氏は、「誰かに伝えるということをいったん忘れて、まずは自分が理解できるように整理すること」を勧める。

「なぜかというと、誰か特定の人に伝えることを考えながら整理すると、『こう言ったら、あの人はこう返してくる』などと余計な思考が入り、頭がこんがらがってくるからです。
相手のことを考えるのは、自分が話す内容をしっかり理解してからでも遅くはありません」

話の内容を整理するのが苦手な人は、フレームワークを活用すると良いという。

「話の内容が、問題解決か新規事業提案かによって、利用するフレームワークは異なります。問題解決に関することなら、たとえば『ロジックツリー』や『3C』『4P』などが良いでしょう。
ご存知の人も多いと思いますが、ロジックツリーは、ツリー型の階層構造によって、上位概念を下位概念に分解していくフレームワーク。『3C』は、自社の置かれた環境を『自社(Company)』『顧客(Customer)』『競合他社(Competitor)』の三つの観点で整理するツールです。
『4P』は、『製品(Product)』『価格(Price)』『流通(Place)』『プロモーション(Promotion)』のマーケティング施策に関する四つの要素を表わします。
こうしたフレームワークは、話の内容をモレもダブりもない状態にまとめられるので、頭の中を整理するにはうってつけです。一
方、新規事業提案に関することなら、『6W2H』『5Why』といったフレームワークを使うと良いでしょう。
『6W2H』とは、『Who(誰が)』『with Whom(誰と)』『What(どんな新商品やサービスを)』『Whom(どんな顧客に)』『Where(どこで・どの市場で)』『When(いつから)』『How(どのように)』『How much(いくらで・どうお金をもらうか)」といった新事業の基本要素を表わしたフレームワーク。
『5Why』は、『そもそも何でここに着目したのか』『なぜお客は買ってくれるのか』『競合にどうやって勝てるのか』『どれぐらい儲かるのか』『世の中のトレンドに照らし合わせて、今回の事業の提案が理にかなったものなのか』という新規事業の説得力に関する五つの質問のことです」

ちなみに籠屋氏は、7・5センチ四方くらいの大きめの付箋を使って、頭の中を整理しているという。

「プレゼンや講演の前には、電車の中や喫茶店での休憩時間などのスキマ時間を使って、思いついた内容を付箋に書いておきます。そして、記入済みの付箋がたまったら、並べてみて整理するのです。
こうすると、短い時間で自分の考えを整理できます。また、まとめる時間がない場合でも、たくさん書いていれば、その過程で頭の中で自然にロジックがまとまってくるものです。
付箋の代わりにパソコンやスマートフォンのアプリを使うこともできますが、手で書くと、書いたときの心情や景色などを思い出せるので、私は手書き派です。良かったら試してみてください」

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「自分の祖母」に説明すると想定してみよう >

著者紹介

籠屋邦夫(こもりや・ くにお)

ディシジョンマインド代表



1978年東京大学大学院化学工学科修了後、三菱化成(現三菱化学)入社。新製品・新製造プロセスの開発等に従事したあと、米スタンフォード大学大学院に留学、同大学院修了。マッキンゼー社東京事務所を経て、ストラテジック・ディシジョンズ・グループ(SDG、米シリコンバレーに本拠)に参画、同社パートナー、日本企業グループ代表。その後、ATカーニー社ヴァイスプレジデントとして広範囲な経営課題に対するコンサルティングに取り組む。ディシジョンマインド社設立後は、企業やビジネスパーソンの戦略スキルや意思決定力向上を支援する活動に注力。著書に、『意思決定の理論と技法』(ダイヤモンド社)、『選択と集中の意思決定』(東洋経済新報社)、近著に『スタンフォード・マッキンゼーで学んできた熟断思考』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

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