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<松井忠三・竹下佳江特別対談>「セッター思考」とは何か?

2015年06月24日 公開
2023年01月12日 更新

松井忠三(前良品計画会長/松井オフィス代表取締役社長)

企業に求められるのは「セッター型」のリーダー

竹下 難しいのは、むしろ点と点を合わせて打ちたい、勢いのあるトスを好む人もいること。コミュニケーションを取って相手に合わせていくことが、セッターには求められます。

松井 まさに「それぞれの個性を引き出す」わけですね。これは現代のリーダーにとって、とても重要な視点です。

竹下 松井さんはアタッカーをされていましたが、経営のスタイルはむしろ「セッター型」寄りなのでしょうか。

松井 最適なリーダーのあり方は時代によって違います。企業の創業期には、すべてを自力で切り開いていくカリスマ型、あるいは独裁者型の「アタッカー型」リーダーが不可欠です。
でも、今は「個性が問われる時代」です。多様な個の力を引き出し、組織としてまとめ、結果を出していかなくてはならない。まさにセッター型リーダーが求められていると思います。

竹下 体育会系の組織には、どうしても独裁的リーダーが多いですよね。松井さんもその世界にいたのに、なぜ「セッター型」になれたのですか?

松井 私もずっとバレーの道を歩んでいたら、そうなっていたかもしれません。ただ、企業に入ってみると「俺が、俺が」ではチームをまとめられないことに気付いたわけです。
今は企業経営者でも抑圧型の人はほとんどいませんね。バレーの監督でも少なくなっているのではないですか。

竹下 そうですね。特に私の現役中最後の監督である眞鍋政義監督は、周りをしっかり見て、まとめ上げることのできる、まさにセッター型の監督でした。

松井 時代がそうさせるのだと思います。これだけ個性が多様になっている時代、みんなの個性を引き出していかなければ、企業もスポーツもうまくいかないのでしょう。

 

個性が強い人をどうまとめあげるか

――バレーの日本代表ともなると、個性が強い人も多く、キャプテンとしてまとめるのは大変だったのではないですか?

竹下 本当にすごい個性を持った人の集まりでしたね。ただ、どんな人でもまずは「相手を認める」ことを心がけていました。一方で、自分を理解してもらうことも大事なので、そこをうまくつなぎ合わせるようにしていました。
また、やはり体育会系なので、自然と先輩後輩の関係になりがちです。そこであえて自分がくだけた状態で接して心を開いてもらう一方、コートの中では絶対にそういう関係ではいけない。オンとオフの切り替えを意識していました。
ただ、バレーと違って企業経営は数百人、数千人をまとめるので、より大変ですよね。

松井 確かに違いますが、どちらが難しいということではなく、違う能力が必要、ということだと思います。
ある意味、大きな組織をまとめるほうが楽な側面もあります。大きな組織は、「こうすればこうなる」という「仕組み」を作れば動くからです。でもバレーのチームはそれが難しい。どんどんメンバーが変わっていく中で、その時点のメンバーが、その時点で最高のチームを作らなくてはならない。簡単に方程式ができないのですね。

竹下 確かに、ただでさえ短い現役の時間の中で、オリンピックに合わせて4年単位でチームが変わっていく。実業団での活動もありますから、実質的な活動期間は2年くらいです。

松井 うまくいったときとそうでないときでは、何が違いましたか?

竹下 結果論かもしれませんが、やはりメダルを取った年はチームワークがよかった気がします。違いは、目標が明確だったかどうか。目標がしっかりしていれば、それに向かって走り続けることができますから。

松井 企業でも同じですね。大事なのはベクトルを合わせること。企業経営者には、それを明確にすることが求められます。

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