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ドラマ『しんがり』主演で感じた組織に生きる光と闇

2015年09月17日 公開
2015年10月01日 更新

江口洋介(俳優)

会社を愛するからこそ戦う
サラリーマンの矜持を見てほしい

1997年、「兜町の雄」と言われた山一證券が自主廃業した。当時、真相を最後まで究明したのは、業務監理本部、通称「ギョウカン」と呼ばれる「場末」の部門だった。その様子を描いた清武英利氏によるノンフィクション作品を原作とするドラマがWOWOWで放送される。主演の江口洋介さんは、当時から今も第一線で活躍する俳優であり、経済系番組のナビゲーターも務めている。巨大組織の理不尽さ、その陰にある人間ドラマをどのように解釈して演じたのだろうか。<取材・構成=村上 敬>

『連続ドラマW しんがり~山一證券 最後の聖戦~』
WOWOW
9月20日(日)スタート(全6話)
毎週日曜 22:00~
原作:清武英利『しんがり 山一證券 最後の12人』(講談社+α文庫)
監督:若松節朗
脚本:戸田山雅司
キャスト:江口洋介 萩原聖人 林遣都 真飛聖 / 勝村政信 岸部一徳 他
1997年4月。山一證券 常務取締役・梶井(江口洋介)は、業務監理本部(ギョウカン)本部長に就任する。社内監査を行なうこの部署は、左遷社員が追いやられる「場末」と呼ばれていた。異動初日に、大蔵省証券取引等監視委員会(SESC)の調査が入るという事件が起きる……。
山一證券の破綻の真相を描いた清武英利によるノンフィクションを原作とする、すべての働く人々の心に響く社会派ドラマ。
http://www.wowow.co.jp/dramaw/shingari/

 

号泣会見した社長は、悪者だったのか?

日本中に衝撃を与えた大企業の経営破綻を描いたベストセラ―『しんがり 山一證券 最後の12人』は、多くのビジネスマンの共感を呼んだ。
同作のドラマ化に当たり、主役を演じるのが江口洋介さんだ。沈みゆく組織の中で奮闘するサラリーマンたちの心情をどのように受け止めたのだろうか。

「山一證券が経営破綻を発表した日のことは、今でも印象に残っています。当時、僕は二十代後半。ドラマ『ひとつ屋根の下』がヒットして、波に乗って仕事をしている頃でした。正直言って、経済ニュースにはあまり興味がありませんでしたが、テレビで山一の社長が記者会見で謝罪するシーンが何度も流れていて、否が応でも目に入りました。いい歳をした大人が号泣しているのを見て、『この人は有名な大企業のトップなのに、不正をしてしまったのか』とぼんやり考えたことを覚えています。

ただ、今回、ドラマの原作を読んで印象が変わりましたね。号泣会見した社長は、経営破たんの数カ月前に就任したばかりで、いわば黒幕たちの身代わりにすぎなかった。当時もそのように報道されていたのかどうか記憶にありませんが、少なくとも僕のように、滅多に経済ニュースを見ない人たちには実態が伝わってこなかった。改めて、報道が作るイメージは怖いなと思いました」

 

会社を愛するからこそ、自分たちでケリをつけた

この「号泣会見」では明かされなかった真相を究明しようと社内調査を行なったのは、どちらかといえば出世コースから外れた〝場末〟の社員たちだった。

「同僚たちが次々に新天地に移っていく中で、彼らは最後まで組織に残って真相究明にこだわりました。

彼らには、葛藤があったはずです。経営破綻の過程には、裏社会が絡んだ案件が明るみになって自殺をしてしまった人もいたし、顧客相談室長が殺されるという事件も起きました。普通なら、怖くて調査なんてできないと思いますよ。
そもそも、破綻で八千人の社員が路頭に迷うことになり、彼ら自身も早く再就職先を見つけないと、生活ができなくなってしまう。そのような状況で、残るメリットはないに等しい。僕が同じ立場になったら、逃げてしまったのではないかと思います。

にもかかわらず、なぜしんがりのメンバーたちはギリギリまで残ったのか。そこには『不正を許せない』という純粋な正義感があったのかもしれませんが、僕はそれだけではないと感じました。
彼らは上層部の人たちを調査しましたが、決して『悪』に染まった存在として扱わなかった。人には楽をしたいときもあるし、自分が偉くなりたいために人の足を引っ張ることもある。主人公たちは、人間はそんなものだし、自分たちも同じ人間だという気持ちで上層部の不正を淡々と暴いていきました。不正への怒りだけが調査の原動力になっているとしたら、こうしたスタンスは説明がつかないですよね。

僕がしんがりメンバーに対して感じたのは、会社への愛情です。実は、『ガイアの夜明け』でも山一證券を取り上げたことがありました。自分が案内人を務める前の放送だったので、最近になって当時のVTRを見たのですが、そこには社内結婚が多かったという企業風土や、いつか山一を復活させたいという元社員の声が紹介されていました。
かつて山一證券は『人の山一』と言われていたそうですが、まさに社員に愛され、支えられていた会社だったのです。

おそらく『しんがり』 のメンバーたちも、会社に対する愛情や仕事に対する誇りを、人一倍持っていたはすです。それが、厳しい状況に踏みとどまってでも、真相を明らかにするという行動につながったのではないでしょうか。
本作品は大企業の経営破綻を題材にしています。ただ、本格的な経済ドラマであると同時に、『会社や仕事を愛しているからこそ、自分たちの手で決着をつけるのだ』というサラリーマンのプライドの物語でもある。ぜひ、その辺りに注目して観ていただきたいと思います」

 

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