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アメリカの超優良スーパー「パブリックス」の秘密とは?

2015年09月09日 公開
2021年08月02日 更新

太田美和子(リテイルライター)

全米NO.1を何度も獲得

アメリカのスーパーマーケット・チェーン「パブリックス」をご存じだろうか。売上げ300億ドルを超える大企業にもかかわらず、そのきめ細かいサービスで高い顧客満足度を誇り、全米NO.1を何度も獲得した超優良企業だ。そのパブリックスの取材を長年続けてきたリテイルライターの太田美和子氏に、パブリックスの「強さの秘密」についてご寄稿いただいた。

 

規模の拡大と顧客満足を両立するパブリックス

どのような業種の企業にとっても、企業規模の拡大と顧客満足提供の両立は、難しい課題です。特に、直接の顧客接点を多数持つサービス業では、各店舗のオペレーションの質の低下が顧客満足低下に直結してしまいます。増加する店舗すべてのオペレーション・レベルを維持することは容易ではありません。

しかし、世の中には、規模を拡大しつつ、提供する商品やサービスの質を高め、顧客満足を提供している企業が間違いなく存在します。そのなかの1社に、「パブリックス」という企業があります。

この企業の正式な社名はPublix Super Marketsといいます。米国フロリダ州に本社を置くスーパーマーケット・チェーンで、現在、米国南東部6州に計1,000店を超す店舗を展開しています。2014年12月期の売上高は306億ドル。日本円に換算すれば売上高が3兆円を超し、従業員17万人超を抱える大企業です。

同時に、顧客満足度が高いスーパーマーケットという評価を得ています。一例を挙げると、ミシガン大学などが毎年実施する米国顧客満足度指数(ACSI)という大規模な調査があります。そのスーパーマーケット部門でこれまでの20年間、常に上位の評価を獲得し続けてきました。

急速に規模を拡大するパブリックスはどのようにして顧客満足も叶えているのか――。調べてみたことがあります。創業した1930年からの歴史を振り返り、同社に関する資料を読み、社員の人々のインタビューを行ないました。

そこでわかったことは、この企業にはそれを可能にする優れた組織作りがあることでした。

 

組織作りの4つのポイント

パブリックスの組織作りのポイントをまとめると、以下の4点になります。それは、

1「企業哲学が全社的に浸透し、なおかつ伝達され続けていること」

2「経営陣と従業員の間で信頼関係が築ける工夫があること」

3「人材育成の方針が明確であること」

4「働く人々の士気につながる従業員ベネフィットが用意されていること」

です。

まず、1つ目の「企業哲学が全社的に浸透し、なおかつ伝達され続けていること」では、いかにわかりやすく伝えるか、途切れることなく伝承するか、に注力している点が印象的でした。

企業理念、ミッション、毎年の目標などは、壁に掲げたり、社内メールを配信したりすれば終わりではありません。すぐに覚えられて、早く身に付き、日々の行動に適用できることが重要です。理念と毎日の業務とを結びつけるさまざまな取り組みがパブリックスにはありました。

たとえば、「テーマ・プログラム」では、その年に特に強化したい点を決め、『TIE(全員参加)』『POP(人々こそ最優先)』といった短いキャッチコピーにしたり、頭文字で造語を作ったりして、全社に浸透しやすくしています。

2つ目の「経営陣と従業員の間で信頼関係が築ける工夫があること」では、帰属意識・連帯感が芽生える環境作りと、各自の能力を尊重し権限を委譲する方針において、パブリックスらしさを見ることができました。

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著者紹介

太田美和子(おおた・みわこ)

リテイルライター

1984年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校社会学部卒業。石油関係、金融関係企業を経て、1989年に販売促進企画会社のブルーチップ(株)に入社。同社発行の情報誌の編集やセミナー企画をしながら、社外の流通専門誌への執筆を行う。2001年に独立し、リテイルライターとして取材・執筆活動中。「生産から消費に至るすべてのプレイヤーが少しずつ損をし、少しずつ得をし合える流通構造」が最近の関心テーマ。著書に『パブリックスの「奇跡」』『イギリス視察ハンドブック』、訳書に『小さなスーパーの世界一のサービス』『30日間「禁煙」プログラム』がある。

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