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マイナンバー・広がる格差と「監視社会」への道

2015年10月21日 公開
2015年10月22日 更新

斎藤貴男(ジャーナリスト)

 

中小・零細企業にとっては負担が増えるだけ

 マイナンバー制度は良いことづくめのように喧伝されています。ですが、政府の説明や礼讃本をいくら読んでも、行政や大企業、それらに勤務する公務員や一流ビジネスマンのメリットはたくさん書かれているのに、零細企業や個人事業主、非正規労働者への影響はまったく触れられていません。なぜでしょうか。そうした層にとってはデメリットのほうがはるかに多いと考えられるからです。

 税の公平性強化を前面に掲げるマイナンバー制度においては、扶養控除や社会保険の届け出など、給料や報酬に関わる部分ですべてマイナンバーを使用しなければならなくなったため、雇用主は社員やパート、アルバイトだけでなく、その扶養家族や取引先業者などの番号を集め、管理する必要があります。その保管や廃棄について政府はガイドラインを示していますが、十分なレベルのセキュリティシステムを取り入れるには多額の費用や手間がかかります。大企業なら専門の部署を作ることもできますが、規模の小さい事業体には不可能です。そのうえ、万が一漏えいした場合、最大で「4年以下の懲役、または200万円以下の罰金」という罰則もありますので、対応に苦しみ、負担に耐えかねた事業者の中には、廃業や倒産に追い込まれるところが少なくないはずです。

 厳密な運用は諸刃の剣でもあります。アルバイトや登録型派遣で生活している人たちは、1年のうちに2ケタから3ケタの相手から仕事の対価を受け取ります。ということは、相手の数だけマイナンバーを知らせなければなりません。当然、漏えいのリスクも高くなる。原稿料や講演の謝礼で食べている私自身も同じ立場なので、内閣府の窓口に問い合わせてみましたが、こんな具合でした。

 ──番号が漏れたためになんらかの損失を強いられたら、どうなるのでしょう?
「罰則規定がありますので問題はありません」
 ──どこから漏れたか特定できない場合は、制度を作った国が補償してくれますか?
「さあ……」

 つくづく呆れました。こうなってしまったら、運を天に任せるしかないのでしょうか。

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著者紹介

斎藤貴男(さいとうたかお)

ジャーナリスト

1958年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。イギリス・バーミンガム大学大学院修了(国際学MA )。日本工業新聞記者、週刊文春記者などを経てフリーに。著書に、『プライバシー・クライシス』(文春新書)、『住基ネットの<真実>を暴く―管理・監視社会に抗して』(岩波ブックレット)、『戦争のできる国へ―安倍政権の正体』(朝日新書)など多数。

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