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エシカルであることは当然のこと。そのうえで、選ばれるブランドに

2015年11月25日 公開
2016年04月06日 更新

白木夏子(HASUNA代表)

【連載 経営トップの挑戦】 第1回
〔株〕HASUNA 代表取締役 白木夏子

 HASUNAは日本初の「エシカルな」ジュエリーブランドだ。エシカルとは「倫理的」「道徳的」という意味で、人や社会、環境に配慮しているということ。実は、ジュエリーの素材となる石や金属を採掘する鉱山などでは、児童労働や、差別を受けている人たちによる危険な環境での労働が横行しているのが世界の現状だ。武装勢力の資金源になっているものさえある。HASUNAでは、そうした産地の素材は使わずにジュエリーを作り、販売しているのだ。創業者で代表を務める白木夏子氏に、同社のビジネスについてうかがった。

 

ビジネスから生じる社会問題はビジネスで解決する

 ――2003年にインドを訪れて、小規模鉱山で働く「不可触賎民」と呼ばれる人たちや子供たちの姿を見たことが、HASUNA創業のきっかけの1つですね。彼らと同様に、小規模鉱山で過酷な環境のもとに働いている人たちが世界に1,300万~2,000万人いるということですが、当時と現在とで、彼らの状況に変化はあるのでしょうか?

白木 正確な人数は国連を含むどの機関も把握できていないので、増えているのか減っているのかはわからないというのが実際のところです。ただ、この数年でこの問題に取り組む団体も増えたことから認知度は高まってきていて、解決のために取り組む人たちも増えてきています。

 たとえば、エシカルな金に認証を与えるARM(Alliance for Responsible Mining)という国際非営利団体が2004年にコロンビアで設立されました。金の製錬では水銀を使うことが多いのですが、労働者の健康や環境に配慮していない鉱山も数多くあります。ARMはさまざまな基準を設けて、それを満たした鉱山に認証を与えることで、こうした問題をなくそうとしているのです。当社もARMが認証した金を一部使用しています。

 ――HASUNAは、非営利団体ではなく、株式会社としてこの問題に取り組んでおられます。その理由はなんですか?

白木 私は、ロンドン大学というアカデミックな立場や国連機関の立場から国際協力の現場を見てきた経験もありますし、NPOやNGOの活動も見てきました。その中で気づいたのは、鉱山で働く人たちが苦しんでいるのは、その人たちを末端としたビジネスのあり方に問題があるからだ、ということです。それなら、自分が理想とするビジネスモデルを作って、それを拡大させることで解決するのが一番いい。成功させられれば、社会にも影響を与えられるはずだと考えたのです。

 ――実際に、御社の活動によって、ジュエリーの素材の生産者の生活に変化は生じているのでしょうか?

白木 たとえば、ルワンダで牛の角の加工品を作っている職人たちの事例があります。

 ルワンダでは1994年に大虐殺が起こり、その影響で、首都キガリだけでも数千人ものストリートチルドレンがいる状態になりました。彼らは学校に行っていませんから文字も読めませんし、手に職がありません。それで、売春やドラッグの売買に手を出す人たちが多い。そんな中、彼らの職業訓練のために、牛の角の加工工場を立ち上げた日本人女性がいます。その方を紹介していただき、現地に初めて行ったのが2009年3月でした。そのときは2人だけが牛の角を磨いていましたが、すぐに取引を始めさせていただき、発注量が増えるにつれて職人の数が増えていきました。今では10人ほどが働いています。

 何よりうれしい変化は、当初はお金が目的で仕事をしていた彼らが、職人としての誇りを持つようになったことです。それは、送られてくるモノを見れば伝わってきます。磨き方や形が、段々と美しくなってきて魂がこもっている感じがしています。

 

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著者紹介

白木夏子(しらき・なつこ)

〔株〕HASUNA代表取締役

1981年、鹿児島県生まれ。愛知県育ち。2002年からロンドン大学キングスカレッジにて発展途上国の開発について学ぶ。卒業後、国連人口基金ベトナム・ハノイ事務所とアジア開発銀行研究所でインターンを経験し、投資ファンド事業会社勤務を経て、09年4月に〔株〕HASUNAを設立。人と社会、自然環境に配慮したジュエリーブランド事業を展開。11年、世界経済フォーラム(ダボス会議)が選ぶ日本の若手リーダー30人に選出。13年、世界経済フォーラム年次総会に出席。

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