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中国人から学んだ「グローバル人材の条件」

2015年11月03日 公開
2023年05月17日 更新

<連載>中国人エリートの「グレーゾーン」での戦い方第1回:江口征男(GML上海/Y&E総経理)

「白黒はっきりしない」という違和感に慣れる

日本人ビジネスマンが、「グレーゾーンでの闘い方」を身につけるためには、2つのことが必要です。

まず1つ目は「グレーゾーンに慣れる」ことです。

グレーゾーンはカオスです。自分の思い通りにならない世界、自分の常識が通用しない世界です。想定外のことが頻繁かつ突然起こる世界でもあります。これまで白黒はっきりした世界を好んで生きてきた多くの日本人ビジネスマンにとっては、極めて居心地が悪い世界だと思います。

これまで自分とは全く関係ない世界だったはずのグレーゾーンで、誰も好き好んで勝負したいとは思わないでしょう。昔、白黒だけの世界で生きていた私にも、その気持ちはよくわかります。

しかし遅かれ早かれ、自分が生き残るためにグレーゾーンでの闘い方を学ぶ必要があるのです。自分が慣れ親しんだ居心地のよい場所に居続けても今後5年は安泰かもしれませんが、10年後に生きていられるかどうかはわかりません。だとすれば、できるだけ早めに「グレーゾーンでの闘い方」学んだほうがいいことは明白でしょう。

そのためには、まず意図的にグレーゾーンに入り、慣れる必要があります。今後この連載で紹介する事例を読むこともその1つだと思いますが、百聞は一見にしかずなので、皆さん自身で「グレーゾーンの違和感」を味わうのが一番いいと思います。

これまでの延長線上にない、自分常識や価値観が通用しない世界に入ってみることこそがグレーゾーンに慣れる第一歩です。特に自分が少数派、弱者の立場となる環境に身におくことが重要です。そしてそこでどうやって自分の価値を出していくか、どうやって強者と互角に闘っていくかを考えて実行してみることが、グレーゾーンでの闘い方を身につける取っ掛かりになると思います。

 

3割は諦め、残り7割を必死で取りにいく

そして2つ目は、実際にグレーゾーンで結果を出す方法、生き残る術を学ぶことです。

なかなか自分の思い通りに事が進まないカオスの中国で生きている普通の中国人は、「没方法(自分だけ努力してもどうしようもない)」と考えて、運を天に任せます。結果に関係する変数の多くは自分の思い通りにコントロールできないので、神様が自分に微笑むという宝くじにかけるという選択をするのです。

しかし中国で成功している中国人エリートは違います。カオスの中でも必死に足掻くのです。変数全てをコントロールして100点を取るという非現実的な理想を夢見るのではなく、結果に影響を与える主要な変数だけに絞って、必死にコントロールして、できるだけ自分に有利な結果を出そうとするのです。

別の言い方をすると、まぐれの100点ではなく、70点を確実に取りにいくということです。この30点を諦められる余裕と、70点を何がなんでも取りにいく執着心の両方がグレーゾーンの闘いでは重要なのです。そしてそのためには、諦めてもいい30点と、何がなんでもコントロールすべき70点の部分を見極める力が必要です。

また、それだけでなく、何がなんでも70点を取るために、その可能性を高める「引出し」がたくさん必要となります。グレーゾーンでは百発百中の策などありません。1つの策を講じてうまくいかなければ2つ目の矢を。2つ目の矢もうまくいかなければ、3つ目の矢をすぐに射なければ、70点ですら取れないのです。

 

私はこれから、連載の中でこれまでの10年弱、私自身が中国に住み、中国人エリートとビジネスをしていく中で経験したり学んだりしたグレーゾーンでの闘い方を紹介していきたいと思います。

中国では「池の水が澄みすぎると魚がいなくなる」とよく言われています。自然界と同様に現実のビジネスの世界でも一定のグレーゾーンが必要であり、そのグレーゾーンの中での最適解を見つける力こそ、これから日本人ビジネスマンが身につけるべきノウハウなのです。

著者紹介

江口征男(えぐち・まさお)

GML上海総経理

Tuck (Dartmouth) MBA。横浜国立大学大学院工学研究科修了。外資系経営コンサルティング会社、子供服アパレル会社を経て2007年より中国上海移住。現在上海にて経営コンサルティング会社2社(GML上海、Y&E)を経営。著書に『中国13億人を相手に商売する方法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。中国ビジネスに関する講演、執筆多数。

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