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「仕事の効率化といえばエバーノート」と頼られるブランドを目指して

2015年12月25日 公開
2016年04月06日 更新

井上 健(Evernote日本法人代表)

 

埋もれてしまう情報を、活用できる情報に

 

 ――法人向けのEvernote Businessが個人向けと違う点を、具体的にお教えください。

井上 エバーノートは、個人向けであっても法人向けであっても、名刺やメモ、議事録、写真、録音データ、動画、パワーポイントなど、なんでも貼りつけるスクラップブックのような使い方をしていただけます。個人向けサービスとして磨かれた優れたUI・UXや操作性が、法人ユーザーには斬新に映るようです。法人向けは、そのうえに、チームでの運営管理をしたり、より情報を共有しやすくしたりする機能を加えています。

 運営管理の機能というのは、誰がアクセスしているかが把握できたり、閲覧や編集など、アクセスできる権限を与えたり、なくしたりできる、というものです。チームへの人の出入りなど、組織の成長や変化に柔軟に対応できる設計になっています。

 

 

 情報の共有というのは、たとえば、今日、こうして初めてお会いしていますが、もしかすると過去にも、当社の他のメンバーが御社のどなたかとお会いしていたかもしれない。エバーノートの中を検索することで、そのときの名刺や議事録、企画書などを探せる、ということです。縦割りや業務の細分化によって、隣にいる人でさえ何をしているのかわからない組織が多いようですが、わざわざ社内中の人に聞いて回らなくても、エバーノートの中の共有の場所に情報を蓄積していくことによって、他の人の仕事にもすぐにアクセスできるのです。また、人が異動しようが、退職しようが、過去のナレッジがすべて会社の資産として蓄積されます。

 しかも、わざわざ検索しなくても、一定のアルゴリズムによって、エバーノートが自動検索して提案する機能も備えています。

 ――検索をしなくても、関係する情報が見つかるのですか?

井上 そうです。自分が書いたものでさえ忘れてしまっていることがよくあると思いますが、そうした情報も浮かび上がらせてくれます。また、「赤坂のあそこで会ったのは誰だったかな?」というような断片的な記憶でも、地図から情報を検索することができます。組織の中で、あるいは個人の記憶の中で、埋もれてしまって永遠に日の目を見ないような情報が、活かせるようになるのです。

 

 

 たとえば、とある文具メーカーさんでは、製品企画部門でエバーノートを活用していただいています。企画というものはほとんどがボツになってしまうということですが、それらをすべてエバーノートに蓄積していく。すると、何年も前に書かれた企画書を、ふとエバーノートのアルゴリズムが何らかの関連性から浮かび上がらせてくれることがあります。「当時はダメだったけど、今の時流には合っている」ということで、何年越しかで製品化に結びついたこともあるようです。

 ――こうした機能は日本法人で考えているのですか?

井上 エバーノートでは、人の本質的なニーズに応えるような良い製品は、極論すればローカライズの必要がないと考えています。それくらいコアな機能を徹底的に追求し、磨いていきたいということです。ですから、国ごとに機能を変えるということはしません。日本法人から提案するのも、日本市場向けの機能というわけではなく、世界共通のものです。

 ただ、製品や機能は世界共通でも、それをどう表現するかは国によって違います。キャッチコピー1つにしても、英語を直訳するだけではダメで、日本のマーケットに合わせて作らなければなりません。日本のユーザーは他の国のユーザーに比べてこだわりが強かったり、要求水準が高かったりしますから、それに応じて、コンテンツにさらに厚みを加えたり、FAQを充実させたり、カスタマーサポートにもとくに注力したりしています。こうした取り組みによって、日本のユーザーの満足度は、エバーノートのどの地域のユーザーよりも高いものになっています。

 ――日本のユーザーのこだわりというのは、どういうところで感じられますか?

井上 同じアプリの評価でも、米国で星4.5のものが日本では星3.5だったりするんです。星1つぶんくらい採点がからい。コメントも、「こうしてくれたらもっといいのに」などと、サービスへの愛ゆえに厳しいものが多い。

 そうしたフィードバックを本社にも伝えて、小さいことの積み重ねかもしれませんが、改善を重ねています。とくに日本のユーザーは、地味であってもたゆまぬ努力を見てくれている気がします。大胆で革新的な新機能を目指すことも大事ですが、そうではない、地味に、1つひとつ丁寧にする仕事も大事だと思っています。

 一方で、日本のユーザーは先進的なことが好きでもあるんですね。だからこそ、初期のユーザーの伸びが、日本では急激だったのでしょう。

 ――リリースしたものの、うまくいかなくてやめた機能もあるのですか?

井上 もちろん、あります。テストは非常に厳しくやるのですが、出してみないとわからないこともあります。たとえば、過去にはエバーノートと連携する兄弟アプリをいくつか出していますが、提供を終了したものもあります。

 また、機能はどんどん追加すればいいというものではありません。複雑になってしまいますから。増えすぎないよう、絶えず見直して、入れ替えをしています。

 ――類似のサービスは他社も出していますが、それらとの一番の違いはどこにあるのでしょうか?

井上 エバーノートは、広い意味ではクラウドを使ったストレージ、あるいはファイルシンクという領域にあって、今やアップル、マイクロソフト、グーグル、アマゾンなど巨大企業も手がけています。それらと何が違うかを極端に単純化してたとえるとすると、他社のサービスがデータをそのまま「地下倉庫」に保管するようなものであるのに対して、エバーノートはスクラップブック的な形式で身近な「戸棚」に置いておく感覚のようなものだということ。

 たとえば会議をして、その議事メモやホワイトボードの写真、使用したプレゼン資料、録音などのデータを保存するとしましょう。他社のサービスだと、同じフォルダにまとめることはできますが、データ自体はワード、JPEG画像、パワーポイント、MP3などのバラバラのファイルの状態です。それに対して、エバーノートだと、一連の流れ・関連性のあるデータとして、同じノートの中にスクラップブックのように配置して保存できます。このような形式は、圧倒的に見やすく理解がしやすい。

 さらに、エバーノートのルーツはOCRという文字認識機能の技術開発にあったこともあり、検索機能が優れています。各データファイルの中の文字、しかも手書きの文字であっても、いちいちファイルを開かなくても検索できます。ですから、「あのときの企画書はどこに保存したかな?」というときに、エバーノートならすぐに検索できるのです。

 大量の資料を地下倉庫に収納するような使い方なら他社のサービスでいいかもしれませんが、いつでも見られるように手の届く範囲に資料を置いておく「戸棚」の感覚で使う必要があるデータなら、エバーノートが適していると思います。いずれにしても、いろいろなクラウドサービスを使い分けることは有効ですし、当社でもそうしています。

 ――さまざまな情報を預けることになると、セキュリティやバックアップについて懸念する人もいると思います。

井上 個人のユーザーは先進的なところがあって、「新しいものは試してみよう」という風土があるのですが、法人の方だとその辺りを気にされることが多いですね。ただ、米国だとそうした懸念は完全に払拭されていて、大企業でもクラウドを全面的に導入しています。日本でも、何年か遅れていますが、そうなるでしょう。

 我々は万全を期してセキュリティチームを配していますし、データは何重にもバックアップを取って逸失しないようにしています。

 どの企業でもITが経営戦略上重要になっている中で、たとえばハッカー対策などの措置を社内で備えられるのかというと、難しいと思います。我々は、そういうことだけを考えている人間を配備していますから、むしろプロに任せるべきではないかと思います。

 

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著者紹介

井上 健(いのうえ・けん)

Evernote日本法人代表

〔株〕住友銀行(現〔株〕三井住友銀行)に入行後、米国留学を経てNECへ出向。シリコンバレー戦略部門の立ち上げに参画し、事業開発、ベンチャー提携などに従事する。帰国後、〔株〕ネットエイジ(現ユナイテッド〔株〕)執行役員に就任し、以後は日本のネット/モバイル・ベンチャーの立ち上げや投資、経営に携わる。2008年、頓智ドット〔株〕(現〔株〕tab)の設立直後に参画し、サービスの立ち上げ、資本提携、事業開発、海外展開などに携わる。12年、Evernote日本法人(エバーノート〔株〕)の代表に就任。

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