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「仕事の効率化といえばエバーノート」と頼られるブランドを目指して

2015年12月25日 公開
2016年04月06日 更新

井上 健(Evernote日本法人代表)

 

効率的なワークスタイルのため、絶えず提案し続ける

 

 ――実際にEvernote Businessを利用している法人には、どういう業種や規模のところが多いのでしょうか?

井上 企業、あるいは部署やグループの単位で使っていただいていて、数百人のところもありますが、一番多いのは数十人規模です。製品設計上、1,000人を上限にしています。

 業種は、IT、メーカー、小売りなど、多岐にわたっています。弁護士事務所や会計事務所などの士業の方も多い。病院も多いですし、学校でも使っていただいています。

 使い方もさまざまで、名刺管理やプロジェクト管理に使ったり、ウェブページをクリッピングしたり、病院だと論文や機器のマニュアルを保存したりされています。

 ――在宅勤務や、店舗がたくさんある業態などでも便利そうですね。

井上 そのとおりですね。エバーノートだけではないですが、クラウドの利点はいつでもどこでもアクセスできることですから。

 在宅勤務は最近、日本でも話題になっていますが、米国では当たり前。通勤の時間を節約できるし、ストレスからも解放されます。仕事によっては自宅で集中してやったほうがいいものもあります。そうしたことをエバーノートが可能にしていることは間違いありません。

 私自身も、エバーノートを使うことによって、会社に来ずしてメンバーが何をやっているのかがすぐにわかりますし、指示も出せるし、相談も受けられます。必要ならスカイプなども使えばいい。

 物理的に遠く離れていて、時差もある世界中のエバーノートのメンバーが、一緒になってビジネスを進めることが可能なのも、クラウドを使っているから。だからこそ、スピード感が生まれているのだと思います。

 ただ、すべてオンラインでできるかといえば、そうではない。フェイス・トゥ・フェイスも大事だと思っています。在宅勤務は私も推奨していますが、必ず、週のうち何回かは顔を合わせるようにしています。今日はこのすぐあと、マーケティングのチームがオフィスを離れてオフサイトミーティングという合宿のようなものを開催しますし、私自身も12月に米国でのオフサイトミーティングに参加します。オンラインでできないことは、定期的に機会を設けて実施しているのです。

 ――最後に、エバーノートが目指す将来像、これから実現していきたいビジョンについてお聞かせください。

井上 我々はユーザーの大事な情報をお預かりしているので、永続していきたいと考えています。シリコンバレーのベンチャーはほとんどが短期的な視野で物事を考えているので、永続を考えているのは、ちょっと珍しいと思います。そういう点では、エバーノートの経営陣は日本的な経営に影響を受けていますね。

 5年後でさえ、スマホがあるかどうかわかりません。もしかすると、すべてウエアラブル端末になっているかもしれない。永続するためには、そうした先進的なものにも対応していかなくてはなりません。ですから、我々は「スマホのアプリ会社だ」とは言いたくないんです。

 100年経っても残っているものがあるとすれば、それはブランドであり、プロダクトへの信用力、信頼力です。「仕事の生産性といえばエバーノートが頼れる」という存在になりたい。それに向けてどんなことができるか、絶えず模索しています。

 

さまざまな面での積極的な他社との提携

 エバーノート日本法人のオフィスを訪ねて驚いたのは、社員の数の少なさだ。全部で12人だという。米国本社にも日本を専門に担当しているメンバーがいるそうだが、これで次々と世界に先駆けた取組みをしているのだから、まさに少数精鋭だ。

 日本において、小規模の会社ながら大きな存在感を示している1つの要因として、パートナーとの提携に積極的なことも挙げられるだろう。インタビュー記事中で触れたNTTドコモ以外では、たとえば、日経新聞と提携することによって、ユーザーが自ら検索しなくても、一定のアルゴリズムによって、役に立つと思われる記事を提案してくれる機能を備えている。

 また、PFUとのコラボで『ScanSnap Evernote Edition』というスキャナーを作るなど、仕事の効率化に関するグッズを他社と組んで企画することもしている。

 さらに、フィル・リービン会長が『お~いお茶』が好きだということで、伊藤園との提携もしており、コラボ企画のイベントなどを行なっている。シリコンバレーで『お~いお茶』が流行したきっかけはエバーノートだそうだ。

 こうした外部に対するオープンな姿勢も、エバーノートの急伸の一因ではないか、と感じた取材だった。

 

《写真撮影:まるやゆういち》

著者紹介

井上 健(いのうえ・けん)

Evernote日本法人代表

〔株〕住友銀行(現〔株〕三井住友銀行)に入行後、米国留学を経てNECへ出向。シリコンバレー戦略部門の立ち上げに参画し、事業開発、ベンチャー提携などに従事する。帰国後、〔株〕ネットエイジ(現ユナイテッド〔株〕)執行役員に就任し、以後は日本のネット/モバイル・ベンチャーの立ち上げや投資、経営に携わる。2008年、頓智ドット〔株〕(現〔株〕tab)の設立直後に参画し、サービスの立ち上げ、資本提携、事業開発、海外展開などに携わる。12年、Evernote日本法人(エバーノート〔株〕)の代表に就任。

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