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なぜ、モスバーガーは愛され続けるのか?

2016年02月05日 公開
2016年02月08日 更新

櫻田厚(モスフードサービス社長)

モスバーガーが「マニュアル」を作らない理由

 非効率だと認識しつつも、高いクオリティを追い求めて、あえて手間のかかることをやる。この哲学は、コミュニケーションにも貫かれている。

「モスでは、できるだけダイレクトコミュニケーションを心がけるようにしています。お客様とのコミュニケーションもそうですし、社内でも同様です。

 たとえば、我々は他のファストフードチェーンと違い、細かい接客マニュアルを作っていません。というのも、たとえば『お客様が見えたときは、おはようございますと元気よく言いましょう』というマニュアルがあったとします。すると、形式的にあいさつすることだけが目的になってしまう恐れがあるからです。これでは機械と同じです。

 お見えになったのが小さなお子様なら、カウンターから身を乗り出して目線を下げ、『何食べる?』と優しく語りかけたほうがいいかもしれません。あるいはご年配のお客様なら、また別の対応があるでしょう。どちらにしても、最適なあいさつはお客様によって違うはず。

 もちろん、それぞれのお客に合ったコミュニケーションを考えるのはある意味『面倒』なことですが、だからこそ本当に心と心が通じるコミュニケーションが生まれるのではないかと思います。

 直接のコミュニケーションではありませんが、店舗の前のイーゼルに立てかけてある手書きのボード。これもまた、何を書くべきというマニュアルはありません。一人ひとりが毎日考え、書いています。もちろん手間はかかりますが、お客様に何を伝えようかと考える習慣が、コミュニケーション力をつけることになるのです。最近では他の店も真似していますが、最初に始めたのはモスで、今年で19年目になります」 

あえて手のかかるコミュニケーションを取るのは、トップである櫻田氏も同様だ。

「実は私は最近、全国各地で『モスバーガータウンミーティング』というものを行ないました。これは全国各地の会場にお客様に集まってもらい、私が直接、ご意見をうかがうというもの。これもお客様と直接お会いして、本音に耳を傾けたいと思ったからです。すべての都道府県で実施するまで4年半もかかりましたが、タウンミーティングを通して気づかされたことは多く、本当にやってよかったと考えています」

 

時間をかけても直接会いに行くべき

 ただ、「最近はネット社会が広がり、リアルな世界でコミュニケーションをする機会が減りつつあることが心配」だという。

「先日、電車に乗ったら、1つの車両に12人のお客さんがいて、そのうち10人は携帯をいじっていました。残る2人は寝ていたので、実質的にみんなネットに没頭していたわけです。

 このように1日の中でネットに費やす時間が増えていけば、人と直接話す経験が乏しくなり、ますます人と話すことが苦手になっていくでしょう。動物の中で言葉を話すのは人間だけなのに、もったいないことです。

 もちろんネットはネットで活用すればいいと思います。実際、私自身もフェイスブックを活用してモスの情報を発信していますし、メールももちろん使っています。ただ、私は100回のメールよりも、1回会って話をすることを選びます。やはり直接会うほうが面倒ですが、そのほうが自分の想いも伝わり、より多くの情報を得ることもできるからです。

 先日も、伊那食品工業の塚越寛社長の本を読み、どうしてもお会いしたいと考え、片道4時間かけておうかがいし、やはり4時間話し込み、4時間かけて戻ってきました。スケジュールを調整する秘書は大変だったかもしれませんが、やはり直接お会いしたことで、大いに刺激を受けることができました」

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著者紹介

櫻田厚(さくらだ・あつし)

〔株〕モスフードサービス代表取締役会長兼社長

1951年、東京都大田区生まれ。72年、創業者である叔父、櫻田慧に誘われてモスフードサービスの創業に参画。77年、モスフードサービスに入社。94年、取締役海外事業部長。98年、代表取締役社長に就任。14年4月より会長職を兼任。

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