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特別対談 香山リカ×佐藤杏樹&西潟茉莉奈(NGT48)

2016年03月09日 公開
2023年05月16日 更新

NGT48のお仕事で大切なこと教えてください!

アイドル=「感情労働」?

アイドルも職業の一つであり、彼女たちもまたビジネスパーソンである。だからこそ、現代の職業人の多くが直面する問題と無縁ではいられない。その一例が「感情労働」の問題だ。

香山 西潟さんは、短大に進学したときに他の道のことも考えた?

西潟 短大で心理学を勉強して、心理カウンセラーになりたかったんです。でも、大学院に行かないとなれないと聞いて。

香山 そういうことも考えた時期があったんですね。

西潟 ありましたね。バイトAKBが契約終了したときに、ドラフト受けようか、普通に就職しようかって悩んでるときに、お母さんに「アイドルは今しかできないんだから」って言われてドラフトを選びました。

香山 佐藤さんは他の道なんか考えたこともない?

佐藤 ないです。それに、まだ中学生なので(笑)。

香山 でも、ちっちゃい子が「パン屋さんになりたい」とか、よくあるじゃない。

佐藤 そういう夢だと、一番最初の将来の夢は、キャビンアテンダントだったんです。英語を勉強して、飛行機に乗って。

香山 キャビンアテンダントって大変みたいですよ。何人か患者さんにもいるんだけれど。
労働って、肉体労働と頭脳労働ってよく言われますよね。肉体労働っていうのは建設現場で働くとか、体を主に使って仕事をすること。頭脳労働というのはいわゆるデスクワークで、主に頭を使う仕事。

そして、第三の仕事として「感情労働」というのがあります。それは感情を使う仕事じゃなくて、感情を抑える仕事って言われています。
アイドルもそうだと思うんだけど、たとえば誰かとケンカして機嫌が悪いときでも、握手会ではニコニコしていなければなりませんよね。あるいは、体調が悪いときでも元気に歌って踊らなければならない。そういうふうに自分の本当の感情を抑える仕事って、実はすごいストレスだってことがわかってきています。

その代表がキャビンアテンダントさん。国際線だとフライトは10時間くらいになるじゃなりますよね。お客さんの中には威張っていて、キャビンアテンダントさんを召使みたいに使う人もいます。でも、お客さんには絶対に言い返しちゃいけないというマニュアルがある。たとえば「お前、ブスだな」などと暴言を吐かれても、とにかく「不愉快な思いをさせて申し訳ありません」と謝らなくてはいけない。それがすごいストレスになるといいますね。

佐藤 それは、申し訳ないけど私には向いていないかもしれないです。

香山 アイドルだって、そういう面もあるんじゃないでしょうか。自分の感情というか、思いを隠して。

西潟 そうですね……。握手会とでも「ここがダメだった」と言われることがあります。握手は券1枚あたり秒数が決まっていますが、それを10枚くらい出して注意を言ってこられるファンの方もいて。「次から気をつけます」という感じで聞くんですが。

香山 「じゃあ、お前がやってみろ」とか言わないの?

西潟 言わないです!(笑) 私のことを思って言ってくれていると思うので。

香山 そうですよね。だから感情を抑える仕事って──まあ、医者もどっちかっていうとそうなんですが、きついなと思います。私は医者の仕事だけでなくて、本を書いたりもするので、「駄作だ」なんてネットに書かれることもある。メールが来ることもあります。「じゃあ、お前が書けよ」ってちょっと言いたくなることもあるけれど、とにかく「ご期待にそえずすみません」とは言う。「どこが駄作なんだ」と言っちゃうと議論になっちゃうから。中身には入らないで、期待に添えなくてすみませんでした、ということでスルーしていく。万人を喜ばせることはできないですしね。
これからCDを出しても、「次の曲がこんなのだとは思わなかったよ」と言われるかもしれないですよね。良かったと感じた人はあまり言ってこないけれど、気に入らなかった人は大きな声で言ってきますから。

西潟 そうですね。でも、今のところはそんなに。応援してくれる方が多いです。

香山 ファンは男性が多いですか?

西潟 基本的に男の人が多いです。モデルの仕事もやっている先輩だと、女性のファンがつきやすかったりします。

香山 女性のファンもいたほうがいいですか?

佐藤 握手会のレーンに女の人が並んでいると、「嬉しい」って思います。私の場合は女の人がくるとしたら、趣味の合う人がくるんですよ。雪国なのでスノーボードやってるんですけど、そうすると「私もやってるんだよね」って言ってくれたり。

西潟 ファッションや髪型をほめてくれたりだとか。

香山 髪型といえば、ふたりともこう、顔の横に長い前髪(※編集部注)がありますよね。それは何かルールがあるの?

西潟 いえ、そういうわけでは(笑)。

佐藤 たまたまです(笑)。

(※)顔の横に髪を垂らすのは「触覚」と呼ばれ、アイドルが多用する。小顔に見せる効果があるとされている。

 

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著者紹介

香山リカ(かやま・りか)

精神科医

1960年、北海道生まれ。東京医科大学卒業。精神科医、立教大学現代心理学部教授。豊富な臨床経験を活かして現代人の心の問題を鋭くとらえるだけでなく、政治・社会評論、サブカルチャー批評など幅広いジャンルで発信を続ける。『しがみつかない生き方』(幻冬舎新書)など、ベストセラー著書多数。『香山リカのココロの美容液』(NHKラジオ第一)放送中。

佐藤杏樹(さとう・あんじゅ)

アイドル/NGT48

2001年、新潟県生まれ。15年、NGT48第1期オーディションに合格。チームNIIIに所属。特技はスノーボード。ニックネームは「あんじゅ」「シュガちゃん」。

西潟茉莉奈(にしがた・まりな)

アイドル/NGT48

1995年、東京都生まれ。2014~15年、バイトAKBとして活動。「第2回AKB48グループ ドラフト会議」において、NGT48に第1巡目で指名される。チームNIII所属。ニックネームは「がたねぇ」。

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