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「優等生社員のワナ」最終回 「悩めるミドルの結束」が会社を変える

2016年06月09日 公開
2023年05月16日 更新

柴田昌治(スコラ・コンサルトプロセスデザイナー代表)

「コアネットワーク」が、会社変革の近道になる

会社を滅ぼす原因ともなる「従来型のできる人」からの脱却を説いてきた本連載。だが、たった1人が変わっただけでは、会社全体を変えるのは難しい。そんな現実に無力感を抱く人もいるはずだ。では、どうするか。連載最終回では、「コアネットワーク」を作ることで会社を変える方法についてうかがった。

 

1人では変わらないが「1割」なら変えられる

これまでの連載で、従来型の「できる人」が陥りがちなワナと、そこから抜け出すための対処法をお話ししてきました。ただし残念ながら、1人の社員が考え方や行動を変えただけでは、会社全体の風土や体質まで変えるのは難しいのが現実です。

しかし、方法はあります。組織を変革するための最良にして唯一の方法、それは「コアネットワーク」を作ることです。コアネットワークとは、「良い会社にしたい」という思いを持った社員たちによる自発的・自律的な結びつきです。同じ思いを持つ仲間と協力して、周囲を巻き込みながら物事を変えていくのです。

多くの人は、仕事のやり方に疑問を抱いても、それを口に出して誰かと議論することはありません。そして時間とともに慣れてしまい、「仕事なんてこんなものだ」「会社に言っても無駄」と諦めてしまうのです。

しかし、この諦めは非常に危険です。かつて日本長期信用銀行が破綻した後、労働組合の幹部の方がこんなことを言っていました。

「今になって元行員たちと話してみると、『実は以前から「この銀行はおかしい」と感じていた』と打ち明ける人がたくさん出てきた。ところが当時は『こんなことを考えているのは自分だけだろう』と思い、誰もそれを口にしなかったというのです」

つまり、「何かおかしい」と思う人がいくら多くても、互いのその思いを表現し合わなければ意味がないのです。

もちろん、その戦いをたった1人で進めるのには限界があります。私は数多くの企業でコアネットワークを通じた風土改革を手がけてきましたが、その経験から「本気の人間が1割いれば、改革は動き始める」と確信しています。

100人中1人では物事は動かない。でも本気の人が10人になった途端、流れは一気に変革へと傾いていくのです。

 

有志の集まりが会社全体を巻き込んだ!

コアネットワークを作るには、具体的に何をすればいいのか。まずは、異なる部門の人同士が集まる自由な話し合いの場を設けるのが近道です。同じ会社の中間管理職同士でも、部署や支社が違うと「ほとんど話したことがない」という人も多いはず。そういう人に声をかけて集まり、話し合う場を作るのです。飲み会でもいいのですが、最初は社内の会議室など、きちんとした場所のほうがいいでしょう。

愛知県にある段ボール機械製造メーカーのISOWAでは、今から15年ほど前、当時30歳前後の問題意識を持つ有志の社員が中心となって、自発的に定時後ミーティングを始めました。

最初は会社への不平不満を率直にぶつけ合うことから始めたそうですが、そのうち「部品在庫の管理に問題がある」という共通の課題が認識されました。ただ、いきなり上に掛け合ってもうまく解決にもっていけるとも思えない。そこで彼らは、自分たちで勝手に在庫整理をやり始めたのです。

時間の経過とともに、それを見ていた他の社員たちも手伝い始め、いつの間にか問題は解決。その後も会議で出てきたさまざまな課題を、周囲の人を巻き込みながら解決していったのです。

そして今、当時のメンバーは40歳を超え、より大きな権限を持って組織の改革を進められるようになりました。その結果、今季の予測では改革前、2億円規模だった利益も、8倍以上にまで成長。一部の有志から生まれたコアネットワークが、大きな変革のうねりとなり、組織風土を一新した象徴的な例です。

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「ジブンガタリ」がチームの一体感を生む >

著者紹介

柴田昌治(しばた・まさはる)

スコラ・コンサルト プロセスデザイナー代表

1979年、東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。
1986年に、日本企業の風土・体質改革を支援するためスコラ・コンサルトを設立。これまでに延べ800社以上を支援し、文化や風土といった人のありようの面から企業変革に取り組む「プロセスデザイン」という手法を結実させた。社員が主体的に人と協力し合っていきいきと働ける会社をめざし、社員を主役にする「スポンサーシップ経営」を提唱、支援している。2009年にはシンガポールに会社を設立。
著書に、『なぜ会社は変われないのか』『なぜ社員はやる気をなくしているのか』『考え抜く社員を増やせ!』『どうやって社員が会社を変えたのか(共著)』(以上、日本経済新聞出版社)、『成果を出す会社はどう考えどう動くのか』(日経BP社)などがある。

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