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仏作って魂入れず(トルクメニスタン)

2016年04月06日 公開
2017年10月03日 更新

<連載>世界の「残念な」ビジネスマンたち(8)石澤義裕(デザイナー)

100部突破の超ベストセラー『魂の書』とは?


エアコンを効かすため、屋内にある観覧車

カッザーフィーの「緑の書」に負けぬよう、「魂の書」なる本を書きます。
国民を幼少時から啓蒙するため、すべての学校で教科書として採用。内容的には哲学と歴史ですが、自動車教習所でも講義させます。
国の課題図書として宣伝に努め、金曜日の呼び方は、『「魂の書」を読む日』に改名。「9月」はそのものズバリ「魂の書」と呼ばせます。
というわけで9月の金曜日は、「魂の書月の魂の書曜日」になります。お陰様で100万部を突破しました。

関連法案として、「4月」は我が敬愛してやまない母の名前に変える所存です。公私混同と勘違いされぬよう、議員から積極的に「提案」させます。
そのほか私情と感情に満ちあふれた政策の数々は、

・ニヤゾフ大統領が医者から喫煙を禁じられたときは、国民も禁煙!

・トルクメニスタンの女性と結婚する外国人に、5万ドルを請求。

・芸術性が理解できないので、オペラ、バレエ、サーカスを禁止。

・女性の金歯は許しません。

・若者の髭と長髪を禁止するあたりは、校則のようです。

・天然ガスの埋蔵量が世界第4位なので、電気、ガス、水道、教育、バス、塩は無料サービス!

・その大盤振る舞いが祟ったのか、田舎の図書館と病院を閉鎖します。

・閣僚に新車のベンツを進呈する予算があっても、年金を大胆に削減。

その閣僚に36kmも走らせるほど健康派でしたが、ニヤゾフ自身が66歳で急逝。
いくつかの政策は、廃案になりました。

 

「ソ連」が色濃く残るホテル

シンガポールのようにおおっぴらに開国せず、むしろ鎖国気味。
北朝鮮のように貧しくなく、むしろお金持ち。
海外から白い大理石を輸入して、数百棟ものビルを白で統一する美的センス。外観に異常なこだわりを見せる政府ですが、多くの国民は世界に接することなく、メンタル系はソ連時代のままです。

仏作って魂入れず……、それがトルクメニスタンなのです。

安いホテルでも一泊60米ドル。それでいて今どきWi-Fiすらないコスパの悪さ。
心のこもらぬ掃除と、怨念のような汚れが染み付いた辛気臭い客室。
開けにくくて閉めにくいドア。足りないリネン類。
下手な遺跡より歴史を感じる壊れた家具。

トイレの水が豪快に吹きだしているものの、それがどうしたと言わんばかりの悪びれない従業員。修理する気がぜんぜん感じられない清々しさ。10年後に再び訪れても、まったく同じ部屋を見られそうなデジャブ感があります。
泊めてやってもよい、ぐらいの大上段に構えたレセプショニストは、宿泊客こそが「おもてなし」をしなければならないと教えてくれます。

ニーズを追わなくてもほぼ満室。
顧客満足度に反比例して、盛況なのです。

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Wi-Fiはレセプション付近しか入りません >

著者紹介

石澤義裕(いしざわ・よしひろ)

デザイナー

1965年、北海道旭川市生まれ。札幌で育ち、東京で大人になる。新宿にてデザイナーとして活動後、2005年4月より夫婦で世界一周中。生活費を稼ぎながら旅を続ける、ワーキング・パッカー。

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