THE21 » トピックス » なぜ、企業は社員の「副業」を奨励するのか?

なぜ、企業は社員の「副業」を奨励するのか?

2016年06月22日 公開
2023年01月10日 更新

『THE21』編集部

副業

会社に縛られる生き方を会社自らが否定

 同様に、副業などの人事制度が社員の離職率減少に大きな役割を果たしているのが、チーム・コラボレーションを支援するツールの開発・提供をするサイボウズ㈱。

 2005年、青野慶久氏が社長に就任した頃、同社の離職率は28%を記録した。人材の流動性が激しいことが安定経営の妨げになっていると判断し、その後、人事制度の改革に取り組んでいった。

 2006年からの「育児・介護休暇制度」の認定をはじめ、2007年には、社員がライフスタイルの変化に合わせて勤務時間や働き場所を選べる「選択人事制度」を導入。これが、2012年より「副業」を許可する働き方のベースとなっている。

「かつて、長時間労働が当たり前で、それが会社への忠誠心と思われていた時期がありました。しかし、それでは離職率は上がる一方。そこで、2006年以降本格的な人事制度改革に取り組み、多様な働き方に対応できるような人事制度を増やしていきました。

 その頃掲げていたのが、『より成長して、より長く働く環境を作る』というポリシー。でも、100人いれば100通りの働き方があっていい。誰もが上を目指す必要もないし、そもそも全員が『長く働く』=『会社に縛られる働き方』をしなくてもいいのではないか? という思いから、社員の独立支援も始めました。

 副業の許可もその流れの一環。おりしもクラウド製品・市場の急拡大によりさまざまなデバイスが普及し、時間的にも場所的にも縛られず自由に働ける仕組みが整ってきた頃でした」

 サイボウズ事業支援本部人事部の松川隆さんは導入の経緯をそう話してくれた。

 多様な考え方・働き方が認められ、自分で選べる制度があるからこそ、自ら積極的に仕事や働き方について考えることができ、各々の仕事の責任感も生まれる。

 そしてそれは、会社の生産性も上げていき、双方に良い影響を及ぼす。これは、与えられた枠組みの中で仕事をしていては得られないメリットだ。

 

規定に反していなければ報告も不要

「副業を解禁した2012年以前も全面禁止だったわけではなく、社員から相談されればその都度判断していました。そんな中、社員から『アフィリエイトは副業ですか?』という質問がありました。

 考えてみると、株をやってお金を稼いでいる人もいるし、仕事のない日にパパ業を頑張っている人もいる。お金のことや休日のことまで制約していくとどんどん窮屈になっていくだけじゃないか、という話になり、これをきっかけに限定的だった副業の許可を原則自由に変更しました」(松川さん)

 サイボウズの副業規定として定められているのは、「会社の資産を毀損する副業はやってはいけない」ということのみ。会社で得た情報や会社のお金、会社の名前などを勝手に使うことは原則禁止。しかし、それに抵触しなければ会社に報告せず、自由に副業が可能だ。

「会社への報告義務がないため正確な人数は把握していませんが、副業をしている社員は20名ほどいるようです。週末などに短期間のプロジェクトのようなものに参加している人もいれば、別の会社を経営している人もいる。大前提として働き方が選べるので、周りの他の社員から特別視されることもありません。賃金も、勤務日数や時間で見ているのではなく、その人の市場価値がどれくらいなのかを評定会議にかけ判断しているので、逆に社外で経験を積んだほうが評価が上がることもあります」(松川さん)

 いつ、どのように環境が変化するかわからない現代、会社に依存する働き方から脱却していくことが、会社にもビジネスマンにも求められているのかもしれない。そのために、会社は、社員の成長の機会を阻害することがあってはならない、と松川さんは言う。

「さまざまな改革の成果もあり、28%だった離職率は、2012年に4%にまでなりました。優秀な人材も定着し、風通しの良い風土となったことでより働きやすい環境が整ってきたと思います」(松川さん)

 育児・介護休暇制度や副業の許可など、人事制度において、時代の先を進むサイボウズ。会社のみならず、「社会に育ててもらい、成長してもらう」という精神は、今後日本社会にも広く根づいていくかもしれない。

≪『THE21』2016年6月号より≫

THE21 購入

2024年5月号

THE21 2024年5月号

発売日:2024年04月06日
価格(税込):780円

関連記事

編集部のおすすめ

「副業」を成功させる秘訣とは?

佐藤 伝(ひとりビジネス応援塾塾長)

業界別・あなたの仕事と働き方はこう変わる!

中原圭介(経済アナリスト),渡邉正裕(ジャーナリスト/MyNewsJapan社長兼編集長)
×